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 慢性的なひざ痛の原因として、最も多いのが「変形性ひざ関節症」だ。

 ひざ関節でクッションの役割を担っている軟骨が少しずつすり減り、歩くときなどに痛みが出てきてしまう症状で、日本での患者数は約1000万人、症状の出ていない潜在的な人も含めると4000万人にも上るといわれている。

「変形性ひざ関節症は、もはや国民病です」と警鐘を鳴らす中村接骨院院長の中村弘志先生は、ひざ痛で接骨院を訪れる人の多くが、50〜60代のシニア女性だという。

「女性は、閉経を迎えると女性ホルモンの減少により急激に骨がもろくなる傾向にあります。骨密度を維持する働きがあるエストロゲンという女性ホルモンの分泌が減ってしまうからです。

 変形性ひざ関節症を引き起こす太ももの大腿(だいたい)骨とすねの脛骨(けいこつ)も、ほかの骨と同様にだんだんともろくなってすり減るので、中高年以降、ひざ関節症に悩まされている人の割合が男性よりも女性のほうが圧倒的に多くなってしまうのです」(中村先生、以下同)

背骨のゆがみがひざ痛を引き起こす

「変形性ひざ関節症を引き起こす原因は、O脚やX脚などいくつかありますが、中でも注目すべきは、“背骨のゆがみ”によるひざ関節の軟骨のすり減りです。

 背骨は、円柱を輪切りにしたような24個の骨が積み重なっており、その上に体重の約13%もの重さがある頭蓋骨を乗せているので、不安定な構造で非常にゆがみやすい。

 背骨がゆがんでしまうと、重い頭蓋骨を前後左右に振りながら歩くことになるので、足を着地させるときのぐらつきが大きくなり、ひざに必要以上に負荷がかかります。その結果、軟骨がすり減ってしまうのです

 背骨は、身体の動きに合わせて自由自在に動かせる反面、いつも同じ側で鞄(かばん)を持つなどといった、何げない癖の積み重ねによって簡単にゆがみ、結果的にひざの軟骨をすり減らすことに。

 その上、シニア女性は骨がもろくなっているので、軟骨のすり減りが加速度的に進んでしまう。ひざ軟骨の過度な摩擦を避けるためには、背骨のゆがみを治すことが重要なのだ。

「ただ、背骨がゆがんでいることに自分で気づくのはむずかしいです。理由は、目で見た映像を脳が補正してしまうから。

 背骨がゆがんだ姿勢の悪い状態だと、顔などが無意識に傾いていて目の左右の高さがズレてしまっているのですが、ズレたままで物を見ると、身体のバランスがとりにくくなってしまう。なので、脳はまっすぐ見えているように補正をします」

 すると、まっすぐ見えているから自分の姿勢は正しいと身体が勘違いしてしまい、いつまでも姿勢が悪いのに気づけないという。

背骨を整えるには「短回旋筋」がカギ

 ゆがみやすい上に、自分では気づけない背骨のゆがみ。改善してひざ痛を軽減させるには、どうすればよいのか。

「目や脳が視界を補正しなくてよいような状態で、身体の奥にある短回旋筋という筋肉を鍛えることが重要です。

 短回旋筋は、背骨を構成する24個の椎骨一つひとつを結ぶようについている、小さな筋肉で、筋肉の伸び縮みを感知するセンサーのような役割を持っています。この短回旋筋を鍛えれば、背骨の軸が整いやすくなり、よい姿勢にしていくことが可能なのです」

 今回紹介する「天井にらめっこ体操」は、中村先生が考案した短回旋筋を鍛えるための体操。

「この体操は、背骨一つひとつに上からの重力がかからないあおむけの状態で、天井の1点を見つめて行います。視覚はバランスにもっとも重要な感覚のため、天井の1点を見つめることで、身体の軸が整いやすい状態になります。

 その姿勢のまま、両ひざを左右に揺らすことで、効率的に短回旋筋を鍛えることができるのです。朝昼晩、お好きなタイミングで1日3分程度続けてみてください」

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 重度の変形性ひざ関節症で、「人工関節手術が必要」と医師に診断された、ある60代の女性は、「天井にらめっこ体操」をはじめとした中村先生のメソッドを実践したところ、3か月後にはひざの痛みがなくなり手術を回避できたというから、試してみない手はない。

「重要なのは、ひざを左右に倒す動きではなく、きちんと正しい姿勢で行うことです。これにより、背骨の柔軟性が高まり、より姿勢が整いやすくなります。

 ひざを左右に倒すことに集中してしまい、天井の1点を見つめている姿勢を崩さないように注意してください」

 また、多くの人は自分の姿勢が悪いことに気づいていないので、セルフチェックをすることも大事だという。

「おすすめしたいのは、一度でいいので、ご自身の立ち姿、歩き姿を録画して確認することです。スマホを机に立てかけて、その場で足踏みする姿を、前後左右から自撮りしてみてください。

 客観的に自分の状況を確認することで、『自分はこんなに猫背で歩いているのか』など気づくことができ、正しい姿勢を習慣化する助けとなってくれると思います」

姿勢を正してひざ痛を軽減!「天井にらめっこ体操」

「天井にらめっこ体操」 イラスト/伊藤和人

(1)全身の力を抜いてあおむけに寝て、ひざを立てる。
(2)両目で天井の1点を見つめ、肩が上がらないようにしながら、肩甲骨を寄せて胸を張る。首の後ろを床につけるようにして、腰が反らないように床につけて尾骨を上げる。
(3)ゆっくりと全身、脱力する。
(4)左側の肩甲骨を床に押しつける力で、ひざを右側へ倒す。
(5)今度は、右側の肩甲骨を床に押しつける力で、ひざを左側へ倒す。
(6)4と5を交互に20回ほど繰り返す。

※「天井にらめっこ体操」を実践しても症状が改善しない場合は、医療機関を受診してください。

天井にらめっこ体操の効果が出やすくなる!
背骨の柔軟性を高める体操

「背骨の柔軟性を高める体操」 イラスト/伊藤和人

(1)首が床につくよう、足の力で骨盤を静かに上げてブリッジする。
(2)尾骨が床につかないように静かに腰から下げる。
(3)尾骨を床から上げたまま、首と肩は床につくようにギュ~ッと5秒力を入れる。 

中村弘志先生●中村接骨院院長、中村薬漢方堂代表。柔道整復師の資格を取得後、同院を開業し多数のメディアで活躍。著書に『悪い姿勢は天井を見つめて治しなさい』(ビジネス社)

教えてくれたのは……中村弘志先生●中村接骨院 院長、中村薬 漢方堂代表。柔道整復師の資格を取得後、同院を開業し多数のメディアで活躍。著書に『悪い姿勢は天井を見つめて治しなさい』(ビジネス社)

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取材・文/後藤友美(ファイバーネット)