がん予防といえば食事改善や禁煙・禁酒を思い浮かべがちだが、現場の医師が強調するのは「筋肉」の重要性だ。
筋トレで発症リスク7%減!“がんに強い身体”は筋肉がカギ
「筋肉量は、がんの発症予防にも、がんを発症したあとの治療成績にも直結します。筋肉は“体力のモト”だけではなく、がんに勝つための土台になる組織です」
そう語るのは、1000例超の手術を手がけ、がんと筋肉の関係を研究してきた佐藤典宏医師。
実際、筋トレなどの運動習慣がある人は、運動しない人に比べ、がん全体の発症リスクが7%低下することが確認されている。
「食道がんは42%、肝臓がんは27%、肺がんは26%と、発症率の大幅な低下が期待できます。特に大腸がんは、運動量と発症率がきれいに反比例。腸が動き、炎症が減り、血糖が安定することで、リスクが大きく低下するんです」(佐藤医師、以下同)
毎日は逆効果!理想は週2~3回
では、なぜ筋トレががん予防になるのか。
「高血糖状態が続くほど、がんの発症リスクは高まります。筋トレはインスリンの効きをよくし、血糖値を下げる働きがあります。さらに、慢性的な体内炎症を抑える効果も大きい。どちらもがんの発症・進行に関わるため、筋トレは非常に理にかなった予防法なんです」
カギとなるのは、筋トレや運動時に分泌される「マイオカイン」というホルモン物質。
「マイオカインは生活習慣病の改善に役立つだけでなく、近年、“天然の抗がん物質”として注目されています。乳がん、肺がん、前立腺がん、膵臓(すいぞう)がんの増殖抑制作用や、大腸がんへの抗がん作用も報告されています。
がんが発症してからでもがん細胞の増殖を抑制する効果があります。もちろん予防効果もあるので、筋トレを習慣化することが理想です」
毎日はNG!最適な頻度は
では、どのように筋トレを行えばいいのか。
「実はいちばん大事なのは、“毎日やらないこと”。筋肉は休むことで強くなるため、最低2日は休息日を入れ、週2〜3日がベストです。ストレッチや有酸素運動は毎日続けても問題ありません」
筋トレと有酸素運動を組み合わせるとより効果が高まる。
「有酸素運動はウォーキングや自転車こぎなど、続けやすいもので十分。順番は筋トレ後に有酸素運動をするのが最も効果的です。有酸素運動を先に行うと、筋トレに必要なエネルギー源が消耗し、筋肉の分解を促進して効果が薄れる可能性があります」
強度は「ややきつい」程度が理想。
「イスからゆっくり立ち上がるスクワットや片足立ちなどでもOK。呼吸を止めず、ゆっくりと筋肉を動かすことを意識してください。強度が高すぎると、血圧の上昇や心房細動のリスクを高めるなど、心臓への負担になるためやりすぎは厳禁」
また、トレーニングを避けるべきタイミングもある。
「強い疲労がある日、睡眠不足の日などは控えてください。身体が弱っていると、逆にがんの原因となる慢性的な炎症を助長してしまうこともあります。がん予防の筋トレは“身体が元気な日”が鉄則です」
佐藤医師は、がんが見つかったあとからでも筋トレを始めてほしいと話す。
「週1回以上の筋トレをしているがん患者は、筋トレをしていない患者に比べ、生存期間が延びることがわかっています。しかも、がん以外の疾患にも筋トレは有効で、すべての病気の死亡リスクが約3割減になります。
加齢などにより筋肉量が減っている人は、手術前に身体を動かすだけでも、治療効果を高め、合併症のリスクを下げられます。筋トレは予防、治療どちらとも、“いつ始めても手遅れにならない”点が最大の魅力です」
今日からさっそく習慣に「おすすめ筋トレ」
「かかと上げ」
イスに座って、かかとを持ち上げる。ふくらはぎに力が入り、ふくらはぎの筋肉強化に。歩いていて転びそうになったとき、前に倒れないようにブレーキをかけてくれる、転倒防止にも◎。
[やり方]
(1)イスに浅く座って、片方のひざを90度くらいに曲げる。両手を腰の位置に置き、両方のかかとを高く持ち上げたら、下ろす。
(2)もう一方の足も同様に10回ずつ繰り返す
「お尻浮かせ」
イスに座って足を大きく開き、お尻を浮かせて、戻すを繰り返す。イスを使うので通常のスクワットより負荷は軽め。体力や筋力に自信がない人にもおすすめ。身体全体の筋肉の大部分を占めており、歩くための筋肉でもある下半身全体を鍛えることができる。
[やり方]
(1)イスに浅く座って、足を大きく外に開く。
(2)少しお尻を浮かせて、また、戻す。この動きを10回繰り返す。
「股関節の内側のトレーニング」
片足を内側に寄せて持ち上げる。この動作を繰り返すことで、股関節や足の内側の筋肉強化に。内ももの筋肉群は、普段の生活でも使えていない筋肉の一つ。身体がグラグラしないように重心のバランスを取ってくれる。
[やり方]
(1)足を肩幅に開いて立ち、片手はイスに、もう一方の手は腰に当てた姿勢から、片足を持ち上げ、元に戻す。足を持ち上げるとき、立った足の内側に寄せるようにする。続けて10回繰り返す。
(2)もう一方の足も同様に10回ずつ持ち上げる。
《POINT》足を内側に持ち上げたとき、内ももにしっかり力が入ることを意識する。
教えてくれたのは……佐藤典宏医師●がん専門医。帝京大学福岡医療技術学部教授。福岡県生まれ。九州大学医学部卒。1000例以上の外科手術を経験し、日本外科学会専門医・指導医、がん治療認定医の資格を取得。がんに関する情報を提供するYouTube「がん情報チャンネル・外科医 佐藤のりひろ」は登録者数20万人超え。『がんにも勝てる長生き筋トレ』(主婦と生活社)など著書多数。
筋トレ監修/荻野秀一郎

