ここまで会話の問題について取り上げてきましたが、身体面についても知っておくといいことがあります。その1つが、遠近両方メガネについて。階段などでの転倒については、遠近両用メガネが“転倒の原因をむしろ作ってしまう”ことがあるのです。

 人は年を取ると老眼になってきますが、老眼になると手元から、より離したり、老眼鏡をかけないと見にくいものです。そこで多くの高齢者が遠近両用メガネをかけて生活をしています。

 遠近両用メガネをかけて下(手元)を見ると手元が見えやすいという便利なものですが、階段で同じように下(足元)を見ようとするとピントが合わず、正常な距離感で足元が見えにくくなってしまい、階段を踏み外して転んでしまうのです。

 階段に行く際には、あごを引いて下を見るようにするか、メガネを遠近両用でないものにするのがよい方法となります。

トイレに連れていくほど、頻尿になってしまう

 最後にトイレの問題にも触れておきます。年齢を重ねると、おしっこが頻回になるというのは聞いたことがあるのではないでしょうか。前立腺肥大などもありますが、高齢になると尿を濃縮するホルモンが少なくなるために頻尿になるといわれているのです。

 ただし、だからといって就寝中にトイレに行かないで済むように、前もってトイレに行ってもらおうとやたらとトイレを促すと、逆効果になることがあります。

 こまめにトイレに行くと、わずかに尿がたまっただけで尿意を感じるようになってしまい、逆にトイレに余計行きやすくなってしまうからです。ですから、膀胱にしっかりと尿がたまってから、トイレに行ってもらうほうがいいのです。

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 高齢者が夜中に何度も起きると、介護する側も睡眠が取れず大変です。なるべく起きてこないようにするためには、ほかにもできることがあります。

 まずは、寝具の素材。レーヨンやポリエステルを避けて、木綿やガーゼなどを使うほうがよいです。というのは、高齢になると皮膚が弱くなるので、寝具がレーヨンなどだとかゆくなったりして、そのかゆみで起きてしまうことがあるからです。

 エアコンの使い方も大切です。エアコンは体に悪いと思われがちですし、高齢者はエアコンを嫌います。しかし、しっかりと睡眠を取ってもらうにはエアコンが重宝します。タイマー設定にして自動的にオフになるようにすればエアコンによる影響は軽減されますし、自動的に消えることをきちんと伝えれば、高齢者も話を聞いてくれやすくなります。

 日本は世界で最も高齢化している国です。ピンチととらえる人もいるかもしれませんが、高齢者に優しい国となれば、世界中から注目される国になるかもしれません。そうなってほしいと願っています。


平松 類(ひらまつ るい)◎医師/医学博士 愛知県田原市生まれ。昭和大学医学部卒業。現在、昭和大学兼任講師、彩の国東大宮メディカルセンター眼科部長、三友堂病院非常勤医師・眼科専門医・緑内障手術機器トラベクトーム指導医として勤務している。延べ10万人以上の老人と接してきており、老人患者が多い病院の眼科医として勤務してきたことから、老人の症状や悩みに精通している。医療コミュニケーションの研究にも従事し、シニア世代の新しい生き方を提唱する新老人の会の会員でもある。専門知識がなくてもわかる歯切れのよい解説が好評で、連日メディアの出演が絶えない。NHK「あさイチ」、TBSテレビ「ジョブチューン」、フジテレビ「バイキング」、テレビ朝日「林修の今でしょ! 講座」、TBSラジオ「生島ヒロシのおはよう一直線」、読売新聞、日本経済新聞、毎日新聞、『週刊文春』『週刊現代』『文藝春秋』『女性セブン』などでコメント・出演・執筆等を行う。