「それでも少子化で女性社員のニーズが高まっており、彼女たちがいなければ企業活動を継続することが難しくなってきています」

 ここ10年の『就業者数の産業別の変化』では、団塊世代が退職した影響で男性は109万人減、女性は104万人増。

「産業別では、建設業や製造業など男性の筋力を必要とする産業の従業員が大きく減少する中、女性の労働力が必要とされる医療や福祉をはじめとするサービス産業が大きく増えています。これを見るだけでも、女性の労働力は量的にも質的にも求められているのです」

 しかし現状は、女性にとって理想的な労働環境からはほど遠い。いまだに長時間労働の幻想がはびこっているからだ。男性社員は自分の成功体験から、"頑張る人は長時間労働"と思っている人が多いと竹信教授。育休中のワーママには長時間労働は難しいため、企業側からすれば、女性に重要なポジションを任せられないという発想に陥りがちだ。

「でも、長時間労働は過労死の原因にもなり、質のいい仕事ができなくなって、会社にはむしろマイナスです。仕事は1日8時間までという国際基準をしっかり守らせるため残業代を引き上げるなどして、男女ともに早く帰れるよう会社を促す必要があります。仕事以外に見聞を広めて社会のニーズを学び、それが仕事にフィードバックされることもあるでしょう。"留学で休業するのは偉くて、育児で休業するのは偉くない"というのもおおいなる錯覚。留学も育児も仕事とは別の環境でいろいろなことを学んでいるわけで、十分に意義があります」

もっと働きにくくなる!? 2つの法案

▼残業代ゼロ法案

「企業が残業代や割増賃金を払わなくてもいいようにするというものですが、法改正を行わずに省令で年収要件を下げられるというのも問題です」(竹信教授)

 現状の法案では、高度な知識を必要とする専門職で年収1075万円以上の人を対象に、労働基準法の時間規制からはずし、休日や深夜の時間外手当が支払われなくなるという。

 しかも経団連の提言どおりになれば、正社員女性なども含め年収400万円あたりの人まで対象が拡大されるおそれもある。

「労働時間は各自の裁量に委ねて、企業が管理しなくてもよくなるということ。そもそも長時間労働は労働基準法で規制されていますが、それがなし崩しにされてしまうのです。子どもがいる女性でも長時間労働を強いられることが考えられます。女性の働く環境が悪化するのは、目に見えていますね」

▼改正派遣法案

 現行法では、企業が雇える派遣社員の中でも専門26業務に限り、派遣期間の制限はなし。それ以外の業務は最長3年間までとされていた。

「ところが先日、衆院を通過した改正案は、業務による区分がなくなり、企業が3年ごとに派遣社員を入れかえれば継続して人を雇えるようになっています。企業側からすれば、育児休業をとるかもしれない女性正社員の代わりに派遣社員を使えるようになるわけですから、これほど使い勝手のいい制度はありませんよ」(竹信教授)

 3年が経過した段階で欠員があれば、違う部署で働くことが可能とされてはいるが……。

「仮にそうでも、仕事を通じて学んできた蓄積はムダとなり、またイチからやり直しです。スキルを身につけられず一生、派遣社員のまま、という不安定な労働者が増える可能性が濃厚」