現在、猛威をふるっているコロナウイルス 。突然のパンデミックにマスクの買い占めや転売などさまざまな混乱が起きている──。この世界的緊急事態に収束はあるのか、どう生き抜くべきか。“コロナ狂騒曲”を目の当たりにしてきた漫画家・コラムニストの辛酸なめ子とともに考える(以下、「」内はすべて辛酸さんの発言)。

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──コロナウイルスが猛威をふるってもう2か月。さまざまな問題が起こっていますね。

「1月下旬からマスクを売っているところが非常に少なくなりましたよね。薬局とかでアイマスクと美容マスクがなぜか目立つところに置かれるようになって、間違って買いそうになりました。これは巧妙な罠だったのでしょうか……。

 昨日、ツイッターで見たのですが、マスクはひと家族1日1個までというドラッグストアの貼り紙に『急に他人になったりメガネをしたり帽子を被ったり上着を脱いだりして何度もレジに並ばないでください』という貼り紙がしてあったそうで、話題になっていました。変装してもバレてるんですね。買うときに気をつけなければと思いました」

──このような買い占めは、いったいどうしておこるのでしょうか。

「買い占めに参加することで“社会に参加している”という感覚が得られる、という説もあるみたいです。また、日用品を集めて周りに置いておくことで安心感を得られるという話も。確かにコロナウイルスは得体のしれない不安ともいえますしね。

 また『商品が売り切れて空になった棚』の写真をSNSにアップする人が出てくるようになり、情報を信じた人が店に急ぐという悪循環も。その投稿者は写真を投稿し、『マスコミの情報操作に踊らされちゃってるね〜』といったような、煽るような文言を差し込んでいましたが、きっと彼も“自分が買えなくて豹変してしまった”のではないかなと思います。

 海外では女性が商品を求めて殴り合いのケンカをしていたというニュースも見ましたし、人間の本性がむき出しになってしまっているような気が……。感染したハリウッドスターのトム・ハンクスがあまりにも早く退院したのも“セレブにだけ使用が許された特効薬があるのでは?”などと疑惑を呼びそうです」

グレタさん『ナウシカ説』

──買い占めなどで売り切れが多くなった“マスクの転売”が法律により罰則化されたというのもすごいですよね。

そうですね。その法の穴をかいくぐってか、ホチキスなどの文房具の写真の端にマスクを映り込ませて高額で売りつける“匂わせ転売”も流行していると聞いて、私も試しに探してみたのですがなかなか見つけるのが難しく……。どうやって検索すれば出るのでしょうか。“26~27度のお湯を飲めば殺菌できる”というデマも流れてきました。

 このように世間がいろいろな情報に流されるなら、流通もストップしている部分があると思うので、たとえば「コロナで洋服不足に!」といったデマが流れ出したら経済が回りそうですね。服が売れない時代ですし。不景気で売れない商品に対してなら「品薄になる!」というポジティブなデマを流してもいいのかもしれません。……ダメでしょうか?」

──ダメだと思います(笑) 以前に流行した『SARS』などとは違って、コロナは世界中で流行しているというのも、これまでにない点ですよね。

「ですよね。それにつけて、いろいろな国でなにが買い占められているかを調べてみたんですけど、マスクが国から支給されるたりもする台湾や韓国はしっかりしていますよね。ほかの国ですと、イギリスがティッシュとトイレットペーパー、あと紅茶がないっていう。リモートワークのなか、ティータイムも増えるのでしょうか。

 日本はマスクとトイレットペーパーに加えて、食料品だと納豆。情報番組の『発掘!あるある大辞典』(フジテレビ系)でも“納豆ダイエット”の捏造が発覚したこともありましたし、なにかと話題にあがる納豆は日本人のソウルフードなのかもしれません。

 少し怖かったのがアメリカで、オートミールや肉、紙類のほかに“銃弾の買いだめ”がはじまっているんだとか。その銃弾というのが暴動が起きたときのために使うんですかね。まるでゾンビ映画の世界観ですね。そんななか、フィリピンではプラモデルが非常に売れているみたいです。外出禁止の間に作るんだとか。ちょっとほっこりします」

──となると、世界中で共通しているのがトイレットペーパーの売り切れですよね。

「生活必需品のなかでも、なくなったら困るもの一番がコレなんですかね。こういった経緯もあってか、最近は人と会ってもトイレットペーパーの話になることが多くなりましたね。“なくなったらどうします?”みたいな。普段あまり会話が盛り上がらない人とも親しくなれたような気がします。

 外国みたいな感じでティッシュペーパーで拭いてそれを袋にいれていくしかないのでは? ですとか、インド式で“縄で拭く”といった話にもなりましたね。使っては切っていくといったように。局地的だったオイルショックのときとは違い、世界中でトイレットペーパーが品薄になるというのは珍しい現象ですよね」

──今回のコロナは中国の武漢から始まりましたが、今後の収束に向けては、いろいろと解明されていないことも多いです。

「疫病は本当に恐いですし、負の側面が多いんですけど、経済活動が停滞したことで環境にはいい影響を与えたというデータも出ていました。ふと、この前、感じたのはスウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが望んだ世界になっているんじゃないかと思いましたね。飛行機も減便になりましたし。

 そこで『グレタさん、(風の谷の)ナウシカなんじゃないか説』を唱えたいです。『ナウシカ』も環境汚染がテーマだったりするわけですし、そうなると、コロナが“王蟲”といった感じですよね。『ナウシカ』的展開にいけば、ナウシカが王蟲の群のほうにいったように、グレタさんがコロナにかかってしまう。それでもコロナに対して“愛の念”を送ることでコロナが無害化されて、患者さんみんなが治っていく。そんなストーリーを夢想してしまいました

──今後、まだまだ収束がみえないコロナにどう接して過ごしていくべきでしょうか。

「コロナを恐れすぎるとかえって免疫力が下がって、かかりやすくなってしまったりすると聞きます。電車内で咳をする人を見て恐れたり、怒りを感じたりするほうがかえって自分も感染しやすくなるのかもしれません。“〇〇県で感染者が○人”といったように疫病神みたいな扱いをするのは、患者さんへのいたわる気持ちが足りないかなと思ってしまいますね。もちろんウイルスをばらまくような人はどうかと思いますが。

 “転売ヤー”がいるなかで、山梨県には中学1年生の女子が自分のお年玉などを使って自作のマスクを何百枚も作って寄付したという心温まるニュースもありました。少しでもポジティブな側面を見つけるのが今できる最善なのかなと思っています。

 私個人としては、例年、花見に誘われないというのが毎年の悩みだったのですが、今年は中止のところも多いので、その心配をしなくていいというところはあります」


辛酸なめ子/漫画家・コラムニスト。
東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)『おしゃ修行』(双葉社)『魂活道場』(学研)、『ヌルラン』(太田出版)など。