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 『日本子守唄協会』が創立15周年を記念して、次世代に歌い継ぐ子守唄を制作。作曲は今年4月に声帯摘出を発表した音楽プロデューサーのつんく♂が担当。

 すでに話題を集めているが、改めて楽曲『うまれてきてくれて ありがとう』に託した3人の思いを、作詞家の湯川れい子と歌い手のクミコに聞いてみた。

湯川「以前、イベントで子守唄を歌ったら、何人もの中高年の男性が泣いてらして。それで調べてみたら、子守唄に反応する人ほど母親の記憶が残っていて、心が渇いていないことがわかったんです。その一方、400人のお母さんを相手に講演をしたときに“歌える子守唄がある人、手を挙げてください”と言ったら全然いなくて……」

クミコ「昔は“ねんねんころりよ~♪”から始まる『江戸子守唄』がありましたけどね。私の子どものころも両親がそれをわざと音をはずして歌ってくれました(笑い)」

湯川「つまり今、『江戸子守唄』を全部歌える人は少ないんですよね。それに、昔の子守唄は『竹田の子守唄』や『五木の子守唄』とか、子守り奉公が自分の不遇を嘆いた悲しみが主体の歌が多い。そこで、私が会長を務める『日本子守唄協会』が今年で設立15周年目ということもあって、次世代に歌い継がれる明るい子守唄を作ることにしたんです」

クミコ「だけど、歌い手として私に声がかかったときは驚きましたね。これはミスだと思いました(笑い)。だって、私は子どもがいないんですから」

湯川「歌い手をイメージしたときに、まずは女性で、落ち着いた雰囲気の声の持ち主。さらに子守唄という枠をはずしても納得のいく楽曲にできる人は誰だろうと考えて……。クミコさんがピッタリだと!」

クミコ「渋る私に湯川先生はいろんな声をかけてくれましたね。なかでも効いたセリフは“この曲を子どもだと思いなさい。だって産み落とすんだから”ですね。それでも声が低いので赤ちゃんを脅すみたいになっちゃうと言ったら(笑い)、そのアルトの声が大切だと」

湯川「カーペンターズのカレンはもともとソプラノだったけど、お兄さんのリチャードから、これまで、人々に愛されてきた女性歌手はアルトの声だと言われて、どんどんキーを下げられたそうです。そういった話があったので、癒しの声はアルトだという思いがあったのよ」

クミコ「そんな感じで説得されて(笑い)、今年の3月に私が歌うことが決定しました。それから4月になって作曲家を探しているときに、つんく♂さんが喉頭がんの治療で、声帯を摘出したというニュースが入ってきたんです」

湯川「近畿大学の入学式のスピーチで発表されたのよね。驚きましたけど“僕も1年生です”というメッセージが前向きで感動しました。そうしたら、クミコさん側からつんく♂さんに作曲を依頼したらどうかと提案されて。このタイミングでお願いしていいものかすごく悩みましたが、思い切ってお手紙を書いたんです」

クミコ「果たし状を思わせる、巻き物のような手書きの手紙だったそうですね(笑い)」

湯川「なんとか理解していただきたい! と思ったら力が入ってしまって(笑い)。つんく♂さんはすぐに“光栄です”と喜んで引き受けてくれました」