
“鬼滅旋風”がとどまるところを知らない。『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』が7月18日に公開され、10日間で観客動員910万4483人、興行収入128億7217万円を記録。今も数字を伸ばし続けている。
『鬼滅の刃』は、2016年から2020年にかけて『週刊少年ジャンプ』で連載された漫画。主人公の竈門炭治郎が、鬼になってしまった妹を人間に戻すために鬼と戦うという物語は知られているのに、映画で公開され、ここまで話題になるのはどうしてなのか?
「結末はわかっているのだけれど、そこを改めて味わいたい、という気持ちが強いのでしょう」
こう話すのは、阪南大学国際学部教授で、アニメに造詣の深い大野茂先生。
「マニア的な観点からいえば、背景など描かれているものを細かく見たいという欲求もあると思います。でも、歌舞伎や舞台の演目を見るのと同じ感覚なのかな、というのが僕の見立てです。
物語を知っていても、みなさん舞台など見に行きますよね。ドラマでも『忠臣蔵』のように、毎年放送されても視聴率が取れている。視聴者からすれば“待ってました”のシーンとか、決めゼリフが見たいわけです」(大野先生、以下同)
そして『鬼滅』に関してはアニメ化したことが、人気を急加速させた要因、と大野先生はこう続ける。
「2019年にテレビアニメ化したのですが、ストーリーの面白さはもちろん、絵のきれいさなども相まって人気が爆発しました。アニメにならなければ、ここまでコミックも売れることはなかったと思います。
若い世代は、アニメで作品を見てから原作を読むというパターンが多い。漫画ではわからない、キャラクターの声やバックに流れている音楽を頭の中で再生しながら原作を読んでいるんです」
“鬼滅旋風”を後押しする宣伝戦略

また、ビジネスの面でもアニメ化が“鬼滅旋風”を後押ししているという。
「ソニーの子会社、アニプレックスが製作していますが、宣伝の戦略としてとにかく隙間なく世の中に広めるわけです。作品とタイアップした商品を出していくとか、どこに行っても『鬼滅』に関係したものが目に入るとか(笑)。
ソニーがバックについたことで、主題歌もプロモーションで大々的に推すことができます。あと、制作会社のufotableが作業のすべてを担っていることも大きいです。これまでのアニメ制作では下請けなどに原画を任せたりしていましたが、自社一貫で制作することによって、作業をスムーズに行うことができています。また今回から紙を使わず、フルデジタルにしたことで、二次元のキャラクターが奥行きのある背景の中に、よりリアルに描けるようになりました」
鬼滅ブームの原因は、原作版元よりも、ソニーのメディア戦略が大きい、と大野先生。映画は『無限城編』が3部作になると発表されている。
このブームを続けるため、次はどんな仕掛けが飛び出すのか?
取材・文/蒔田稔