1990年より『週刊少年ジャンプ』で連載された漫画家・漫☆画太郎による伝説のギャグ漫画『珍遊記~太郎とゆかいな仲間たち~』。シリーズ累計販売部数約400万部を記録した本作の実写映画『珍遊記』(監督/山口雄大)が、2月27日(土)から新宿バルト9ほかにて公開される。

 すでに発表されている主人公の山田太郎を演じる松山ケンイチや、玄奘役の倉科カナのビジュアルで世間はざわついているが、今回の映画にはもうひとつ大きな"珍"があった! 『銀魂゜』『おそ松さん』の脚本/シリーズ構成を務める放送作家・松原秀さんのほかに脚本がもう一人。なんと、人力舎のお笑いトリオ「鬼ヶ島」のリーダーおおかわら氏が初の映画脚本に携わることに。

 一体なぜ、お笑い芸人が脚本を書くことになったのか? 本人に公開を前にした心境を聞いた。

——今回、映画の脚本を書かれるのは初めてですか?

「もちろん生まれて初めてですよ。普段のお笑いの舞台用に書いている脚本なんて3分とか5分、下手したら1分とかで終わってしまうものですからね。映画って、100分の尺ですよ!(笑い)」

——もともと作文は得意だったんでしょうか。

「小学校のときに埼玉県知事賞をとったことがありますね。それは、絵の賞なんですけど(笑い)。実は、作文はあんまり好きではなかったです。大人になってお笑いのネタを書いたり、ブログを書くようになってからのほうが楽しめるようになりました。ただ、読んでいる本の量が絶対的に少ないこともあって、ボキャブラリーはとても少ないような(笑い)」

——じゃあ、映画が好きだったんですか?

「そうですね。昔から映画は好きで、特にティム・バートン監督の作品がとても好きなんですよ。影響はかなり受けているんじゃないかな。あ、今回の映画にはまったく反映されていませんけどね(笑い)」

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おおかわら氏の隣には、普段から仲の良いという"友達"が。取材中にも関わらず行儀が悪い

——そんなおおかわらさんが、なぜ脚本を担当することになったんでしょうか。

「そもそも今回、"脚本を書きませんか"と声をかけてくれた監督さんと僕の相方が知り合いだったんですね。で、一昨年、鬼ヶ島で単独ライブをやっていたら監督さんが来てくださって、すぐにご飯に誘われまして。そして、その場でいきなり"脚本を書きませんか?"という流れになったんです」

——めちゃくちゃあっさり脚本家デビューじゃないですか(笑い)

「まあ、もちろん以前から監督さんは我々の舞台のネタ、それから台本をつくっている僕のことを気にかけてくださっていたみたいなんですけどね。本人曰く、観に来た舞台での超滑ったネタが起用の決め手だったそうです。

 というのも、お笑いのネタって、観客がその場で表面上にウケてくれるネタと、あとになって印象に残るネタはまったくの別物だったりするんですよね。僕はいつもコントの台本を書くときはスベってもいいから100人中2人くらいの心に深く刺さってほしいと思って書いていて、それが、どうやら、今回は見事に監督のハートに刺さっちゃった……みたいですね」

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おおかわら氏の失言を見逃さない"友達"

——よくできた話ですね。さて、映画とネタ作りとの大きな違いはどこにあるのでしょうか。

「大きな違いはないと思いますよ。セリフでもト書きでも、相手に伝わればいいんです。

 でも、これまでお笑いのネタを書くときは、もっとゆるいんです。たとえば、ネタ台本はセリフの語尾が"でしょ!?"でも"……だろ!?"でもどっちでもよくて。舞台で面白ければそれでいいので。お笑いだと。映画が難しかったのは、そういう部分も一字一句ちゃんと考えて書かないといけなかったところにあるかもしれませんね」

——脚本を執筆するにあたって特に何が大変でした?

「よくあることだとは思いますが、“それ、先に言っておいてよ〜”みたいなことは大変でしたね。“前に言っていたのと逆じゃね?”と感じることは多かった(笑い)。

 正直な話、これまでのお笑いのネタでは相方ふたりを騙して納得させられていればそれでよかったんですよ(笑い)。"コレ絶対ウケるから"ってダマせればOKだったんです。今回ばかりは、いろんな関係者の方々に納得してもらわないと先に進めないんですよ。もちろん、最終決断は監督さんですけど、やりとりは特に大変でしたね」

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おおかわら氏よりも、どうにかして目立とうとする"友達"

——どれくらいの日数で脚本を書き上げたんですか?

「おととしの9月、10月くらいから書き始めて、去年2月にはできていました。この期間、すさまじいストレスでしたけども(笑い)」

——今回は原作漫画がありますが、実写化に向けて難しいところもあったかとは思います。

「それが良さでもあるんですけど、原作の漫画って主人公が酒場のなかで戦ってほぼ終わるんですよ。そこには、ストーリーがあんまりない(笑い)。映画にするにあたって、みんなが知ってそうな漫画中のギャグ、とにかくわかりやすいシーンを残そうというのは意識していましたね。

 原作では『ドラゴンボール』に出てくるフリーザのセリフを主人公が言ったりするんですけど、それは映画ではできません。

 それから、画太郎さんの漫画作品の特徴として同じコマを何度も繰り返したりするのも、面白いところなんですけど、それも再現できない。

 いろんな制約があったので、ストーリーを展開する部分は映画のオリジナルキャラクターを演じる溝端淳平さんのところにセリフを多くもっていきました」

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おおかわら ●1977年5月31日生まれ。お笑いトリオ「鬼ヶ島」のリーダー。コントでは脚本を担当し、早稲田大中退。今回の映画『珍遊記』で映画脚本デビュー

——今回、初めての脚本ということで、おおかわらさんが特にこだわった場面は?

「倉科さんに卑猥な言葉を何度も言わせているところですね。本当はもっともっと卑猥にしたかったんですけどね。最初にお話をいただいたときに一言目はこの言葉にしようということを心に決めていました(笑い)。そこを監督さんがちゃんと残してくださって、倉科さんも全力で演じてくださったので。そこが一番の見どころです!」

——なんだか、やりたい放題ですね。最後にまもなく公開される映画『珍遊記』の楽しみ方を教えてください

「原作が好きな人は、原作とは違うところを楽しんでいただきたい。知らない方は、原作の世界観ってこういう感じなんだというのを知っていただきたい。両者に楽しんでもらいたいと思います。個人的にはこれからもどんどん脚本の仕事もやってみたいですよね。いろんなお仕事ができればうれしいと考えています。

 7年前くらいから自分はバラエティに向いていないと思っていたので、いい機会なんじゃないかと(笑い)」

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おおかわら氏は、オリジナルキャラクター張明役として映画にも出演(左から二番目)