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 京都府福知山市三和町にある小高い草山。近所の農家の人が山道を歩いていると、崖下から甲高い猿の鳴き声が聞こえた。生後間もないとみられる子猿が、母親の死骸にしがみついていた。

「状況からみて、子どもをかばった母猿が崖から転落死したようでした。母猿に守られて子猿は無事でした。お母ちゃんにくらいついてキーキー鳴いとったそうです」

 子猿を預かることになった福知山市動物園の二本松俊邦園長(70)は言う。’10 年5月のことだった。

 現場の三和町周辺の山々を渡り歩くニホンザルの群れがあり、子猿は『みわちゃん』と名づけられた。可愛い名前だけれどオス。ほぼ同時期に市内西部で溝にはまって動けなくなったオスのイノシシの赤ちゃんが救出され、同じく動物園に預けられた。『ウリ坊』と名づけられた。

「ウリ坊は毎晩、事務所の入り口でおとなしく寝るんやけど、ニホンザルの赤ん坊は1歳ぐらいまでは母親と離れられへんのです。みわちゃんは夜になって僕らが帰るとき、“ひとりにせんといてくれ”ってキーキー鳴くんですわ。かわいそうで、どうしたらええかと思案していたら、あることを思い出したんです」

 約11年前、ミニブタと猿を一緒にしたことがあった。本来、別の種類の動物を一緒の檻で飼うことは難しいが、このときはうまくいった。毎晩のように鳴くみわちゃんの世話を、1週間早く動物園に来たウリ坊に任せてみた。

「ウリ坊は、一緒の小屋にみわちゃんを入れた最初の3日間は嫌がっていたけれど、4日目の朝には一緒に寝ていました。そのうち一緒に散歩するようになりました。お互いに群れから離れてしまったひとりぼっち同士、助け合って生きているゆうて、地元の新聞に取り上げられました。微笑ましいと、韓国のテレビまで取材に来るようになって、大人気になったんです」

 動物園の入場者数はわずか半年で19万人を超え、前年比3倍増を記録したという。

 2〜3歳で大人になるイノシシのほうが、7歳で成体となるニホンザルより成長が早い。ウリ坊は、大きな背中にみわちゃんを乗せて散歩した。またがるみわちゃんは得意げ。

 しかし、屋外で散歩シーンを公開できたのはわずかな期間にとどまった。ウリ坊は体長1メートル、体重100キログラムを超え、猪突猛進のごとくガンガン檻にぶつかるようになった。それでも、2頭の仲のよさは変わらない。

「いまだに一緒にごはん食べとるし、もう5年になるからお互い空気みたいなもんとちゃいますか。言うたら、きょうだい以上の仲ですわ」

 みわちゃんは、ウリ坊の背中を踏み台がわりに高いところへジャンプすることもあるという。さて、今年の抱負は?

「来園者から“みわちゃんとウリ坊に嫁さんをもらったってくれ”と懇願されて困っています。その気持ちはわかるんです。でも、サル山には現在30頭いるし、別の檻で暮らすみわちゃんに嫁をもらうと、もうひとつサル山が必要になってきます。もう少し我慢してもらって、いつまでも2頭で仲よう暮らしてくれたらうれしいんやけど……」