ホームから転落しそうになった経験がある人は59.9%

 別の団体にも話を聞いた。

 日本盲人会連合に加盟する東京都盲人福祉協会の笹川吉彦会長(82)は「事故現場は騒音がひどかった」と話す。

「私たちは音が頼り。銀座線は本数が多く、線路を挟んだ反対方面のホームを含めてひっきりなしに電車がやってきた。地下なので音が大きく反響し、どちらのホームに電車が入ったのかわからないこともありました」(笹川氏)

 笹川氏は'50年に失明して以降、駅ホームから3回転落したことがある。最も怖かったのはJR高田馬場駅の山手線ホームから転落したとき。

「昼どきで予備校生の人波に押され、点字ブロックを離れてしまった。線路に落ちて頭上でバババッと大きな警告音を鳴らされたときは、もうダメだと思いました」(笹川氏)

 落ちたのは停まった車両の目の前。幸いケガはなかった。

 視覚障害者の転落経験は多い。'11年に全盲の男性がJR目白駅のホームから転落して亡くなった事故をきっかけに、日本盲人会連合はアンケート調査を行った。有効回答252人中、ホームから転落したことのある人は92人で36.5%。ホームから転落しそうになった経験がある人は151人で59.9%を占めた。

「全9路線179駅中、ホームドア設置ずみは85駅で47%。100%設置を目指しています。銀座線は大規模工事中の渋谷と新橋を除く全駅で'18年度末に設置完了予定です」(東京メトロ広報部)

「一緒に電車に乗りましょう」

 恐怖体験はホーム転落だけにとどまらない。前出の笹川氏が日常の恐怖を例示する。

「電車がホームに着いた途端、発車のベルが鳴る。私たちは乗り遅れないよう、できるだけホーム端の乗車口近くに立っていたい。危ない場所にいる私たちを見つけたら、勇気を持って声をかけていただけるとありがたい」(笹川氏)

 ただし、黙って身体に手をかけるのはNG。何をされるのか、と恐怖を感じるからだ。「一緒に電車に乗りましょう」などと声をかけ、白杖や盲導犬のハーネスを持つ手とは逆の上腕をつかんで半歩前を先導してほしいという。

(写真上)ホーム端の警告ブロック=駅ホームの白線の内側に設けられている。写真左手の白線の先に線路があり、ホーム中央寄りの警告ブロック右側に誘導ラインが1本入る。(写真左下)警告ブロック=5×5の25点のドットで構成し、危険な場所などを示す。この先に階段があるときや改札口の手前、壁の手前などに置かれる。(写真右下)誘導ブロック=4本の太いラインで構成し、進行方向を示す。ホーム、トイレ、改札口などへブロックを直線につなげて案内する
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 視覚障害者向けに、3パターンの黄色い点字ブロック(写真参照)でルートが示されている。1ブロックは約30~40センチ四方と小さく、歩幅が大きい男性はうっかりまたいでしまうこともある。ブロックの意味を覚えておくとスムーズに案内できる。

「改札口付近の点字ブロックの上にずっと立っている人がいる。足ツボを刺激して気持ちいいのかどうか知りませんが、ブロックの上には立ち止まらないでください」(笹川氏)

 歩きスマホ、携帯電話で話しながらの歩行、後ろ手にカートをコロコロ転がして歩くのも怖い。ラグビーのステップを踏むように人波をすり抜けていく人は恐怖でしかない。

「足がすくみ、白杖を折られることもある。コロコロにひっかけられて転ばされることもある。ぶつかるまで私たちにはわかりません」(笹川氏)

 路上にも恐怖はある。横断歩道が最も怖いという。

「都内で信号機から誘導音が出るのは朝8時から夜8時まで。それ以外の時間は周囲に神経を使い、車の走行音などで判断するしかなくなります。ドライバーに見えるように白杖を大きく振りながら道を渡ることもある」(笹川氏)

 極端に大きな音や、その逆に聞き取れない静かな音で迫られるのも怖い。オートバイが爆音をとどろかせると思わず立ち止まる。後ろから無音で自転車が猛スピードで脇をすり抜けていく。走行音が静かなハイブリッド車などの接近に気づくのも難しい。

 目をつぶって外を歩く。それがどれほど怖いか少しは想像できるはずだ。しかし、周囲の手助けがあればその恐怖は遠ざけることができる。