火災の1週間前、1月24日の東京・永田町。衆院本会議の代表質問で立憲民主党の枝野幸男代表は、10月から実施される生活保護費切り下げについて迫っていた。

「現場の実態に目が向いていない。今回の見直しで子どものいる世帯の4割以上、ひとり親世帯に絞っても4割近くが減額になり、全体では3分の2を超える世帯で減額になる。減額規模は月数千円とはいえ生活保護で何とか暮らしているみなさんにとって月1000円は大金。減額部分については中止するべき」(枝野代表)

 答弁に立った安倍首相は、「減額となる世帯への影響を緩和するため、減額幅を最大でも5%以内としつつ、3年かけて段階的に実施する」などと言い訳に終始した。

子育て世帯にも冷たい

 全体の削減額は3年間で国費計約160億円にのぼる。生活困窮者の支援などに取り組む反貧困ネットワーク埼玉の藤田孝典代表は「生活保護費引き下げは暴挙」と話す。

「2013年からも3年かけて引き下げられています。受給世帯にどのくらいダメージがあったのか、生活保護基準と連動するほかの制度にどのような影響があったのか、検証しないまま再び引き下げるのは拙速です」と藤田代表。

 札幌の共同住宅火災をめぐっては、入居者の地味な生活ぶりが各メディアで報じられた。藤田代表によると、実際、生活保護を受ける高齢者の暮らしは質素だという。

「食費を抑えようと1日2食に減らしたり、夕方以降のスーパーの値下げ品しか買わなかったりします。衣服なんて年に1回、買うかどうか。これがGDP(国内総生産)世界3位の日本で、健康で文化的な最低限度の生活水準といえるでしょうか」(藤田代表)

 受給者は高齢者だけではない。今回の見直しではほかに、ひとり親世帯の母子加算は平均月4000円減額される。児童養育加算についても3歳未満は月5000円の減額。その反面、児童養育加算の対象は現行の中学生までから高校生まで拡大される。安倍首相は得意げにアピールしていた。どう評価すればいいのか。

 花園大学社会福祉学部の吉永純教授(公的扶助論)は、

「加算のプラスマイナスだけを見てはいけません」として次のように説明する。

「保護費本体と加算の合計でみると、大都市部では例えば夫婦と子ども2人の4人世帯には、現行で月額約20万5000円出ていますが、2020年度には19万6000円まで減らされます。

 あるいは小・中学生の子ども1人ずつを育てる母子世帯でみると、現行月約20万円の保護費が'20年度までに19万2000円に減ってしまいます。子ども2人を持つ世帯についてはかなり減額される見込みですので、子育て世帯に冷たいと言わざるをえません」(吉永教授)