古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第50回は山名宏和が担当します。

坂上忍 様

 今回、勝手に表彰させて頂くのは坂上忍さんである。

坂上忍

 4月からMCを務める番組が2本増え、さらに勢いを増す坂上さん。僕も新番組の1つ『坂上&指原のつぶれそうなのにつぶれない店』(TBS系 日曜夜7時)に参加しているのだが、その関係で、坂上さんのスゴさを物語る現場の声をしばしば耳にする。確かにそれを聞くと、次々とMCの依頼が来るのもよくわかる。

 あるスタッフは、坂上さんの収録に臨む姿勢に驚いていた。

「台本の読み込みがスゴい」

 スタジオの進行台本は必ず収録の前日までに渡すという。バラエティー番組で、事前に台本に目を通してくるMC自体少ないが、坂上さんの場合、読み込み方が半端ない。その証が、台本に残る無数の書き込みである。どこで誰に話をふるかを書き込む。わからないことがあれば自分で調べて書き込む。

 この書き込み作業は収録当日も続く。収録前の打ち合わせでディレクターが発した何気ないヒトコト、たとえばVTRに入り切らなかったネタや取材相手の印象など、気になった話は即座にメモし、トークの中に織り込んでいく。

 本番中に書き込むこともある。新鮮なリアクションを期待して、VTRは坂上さんにも本番で初めて観てもらう。台本に書いてあるのは、内容の概要だけである。そこでVTRを観ながら、登場したデータや印象的な言葉などをメモしていく。そして、VTR明けのトークにすぐさまそれを反映させていくのだ。

 これまで僕も、数々の名だたるMCの番組に携わってきたが、ここまで生真面目に司会進行に臨んでいる人は見たことがない。

 坂上さんのスゴさを語る声は他にもある。

「時間感覚がスゴい」

 スタッフ曰く、坂上さんは与えられた収録を時間内におさめることが自分の一番の仕事だと考えているという。『バイキング』(フジテレビ系)のような生放送の番組なら確かにそれは大事なことだが、収録番組ならば多少伸びたところで何の問題もない。しかし坂上さんの中でそれは、自分のポリシーに反することのようだ。

 そこで収録前の打ち合わせで、どれだけ時間がかかるかの想定、業界用語でいう「尺読み」が行われる。とはいえ、バラエティー番組の台本はドラマのように一言一句セリフが書いてあるわけではない。進行に必要なセリフとゲストへ話をふるための質問、そしてその答えが簡潔に書いてある程度である。坂上さんがスゴいのは、その台本を元にトークの脳内シミュレーションをすることである。

「ゲストがこの話をすると、他の人からこんな質問が来るに違いない。だとすると、トークはこんなふうに膨らむから……」

 そして、あらためて収録時間を確認した後、スタッフに提案する。

「このブロック、長くないですか?」

 こうして進行、ネタ数、時間配分、万全の準備を整えて収録に臨むという。