報告書が出されたのは、その翌年6月のことだ。授業の環境や事前準備、指導計画、体育の安全に関する校内研修が行われていたことなどが列挙されていた。

 一方で、翔くんの体格の変化が一因と書かれていた。

《体格が大きくなって、その体格自体が体の自由度を奪っていたということは考えられる》

 両親によると、「体格が大きくなっ」たのは、部活の柔道で階級を上げるため体重を増やしていたから。しかも、体育教師は柔道部の顧問だ。

「階級を上げたほうがトーナメントで勝ちやすいから、と。教師はそれを知っていたはずです」(篤志さん)

隠蔽と見られても仕方のない報告書

 報告書では《1年生のときに取り組んでおり、跳べる力があると判断していた》とある。一方、《前の授業でも跳び箱が行われており、本人からの聞き取りによると、1度失敗している》とも書かれている。容子さんは「特別な指導はありませんでした」と言う。

 スポーツの危機管理に詳しい、南部さおり・日本体育大学准教授は「跳び箱を跳べるかどうかを教員はどのように見極めたのでしょうか。前の授業で判断したというのなら、報告書ではこの点にも触れる必要があります」と話す。

 ちなみに、この体育教師が顧問を務める柔道部でも、部活中に救急搬送があったという情報もある。

「同じ柔道部だった兄の記憶では、少なくとも2年半の間で6回、救急車を呼ぶ事故がありました。確認もとれています」(容子さん)

篤志さんと容子さん。自宅は翔くんが入院先から戻ったときのため、バリアフリーに改装中だ

 指導方法には問題はなかったのか。

 文科省が作成した、器械運動の「指導の手引き」では、“回転系(台上前転など)”と“切り返し系(開脚跳びなど)”を授業で行う際、技の順番に配慮を求めている。交互に跳ぶ場合は、回転の感覚が残るため、切り返し系を先にすることを求めている。

 当日、教師は回転系と切り返し系の両方に取り組むように指示した。翔くんは開脚跳びをしたあと、台上前転をし、その後、開脚跳びをした。そのとき事故は起きたが、報告書では《必ずしも技の順番の問題とは言えない》という。

 南部准教授は「報告書では授業の時間経過が書いておらず、状況がはっきりせず、原因究明がなされていません」と指摘する。

 一方、再発防止の「提言」には、《同じ授業内で回転系と切り返し系の両方を指導する場合、切り返し系を先に取り上げることが大切》とある。「順番は問題ない」としつつ、順番を守るように提言するのは矛盾ともとれる。容子さんは不満げだ。

「本人が開脚跳びをしようと思っていたから問題ないとなっています。おかしくないでしょうか」