しかし、ここでも虚偽の説明が行われた。たとえば、シューズの裏に「しね」と書かれていた。この件に特化したアンケートを実施したと説明したが、実際にはしてないという。

「“教師一丸となって、学校全体でいじめ問題に全力で取り組んでいる”との説明もありましたが、他の保護者からも、自身のこどものいじめ対応について、“うちの子どももLINEで嫌がらせを受け、1か月以上前に相談しているが、連絡がない”などの声が上がっていました」(同)

 この説明会では、ネットへの書き込みについても注意喚起するはずだったが、説明もされず、これまで保護者や生徒の間でなされていた誹謗中傷がネットに飛び火する形になった。まずは加害生徒の名前が出され、被害生徒の名前も出されていった。

 担当した荒生祐樹弁護士は「これまでいじめの加害者が誹謗中傷を受け、名誉やプライバシーが侵害されたことを理由に発信者情報開示の裁判に至ったケースはいくつか見られるが、いじめの被害者が発信者情報開示請求を行い、判決にまで至ったのはそれほど多くないのではないか」と、異例な裁判だったことを明かす。

いじめの被害者は、加害者を含め匿名で中傷する人たちを許せないのは当然だと思うが、辛い思いをしている中、ここまで行動を起こすことはとても難しいのが現実だと思う」(荒生弁護士)

 発信者が判明すれば、今後、名誉毀損の損害賠償請求訴訟が可能になる。ネットいじめの抑止や対抗策になり得るのだろうか。荒生弁護士はこうも指摘する。

「今回の判決の意義は、いじめ被害を受けたことはプライバシーとして法的保護の対象となる、と裁判所が示した点にあると考えます。投稿者を特定できれば法的責任を追及することができます。書き込み全体からすれば、氷山の一角に過ぎないかもしれませんが、今後、匿名で安易にネットいじめに加担しようする人に対して、大きな抑止力になると思います」

 いじめ問題に取り組む、NPO法人「ジェントルハートプロジェクト」の小森美登里理事は、

「ネットいじめに関する相談はきていますが、今回のように個人を特定するケースはほかに聞いたことはありません。良い影響があればいい」

 と話す。

 判決は、今後の活動にどう生かされるのか。

「自由に情報発信できる時代ですが、履き違えた発信もあります。学校の講演ではメディア・リテラシーについて、例えば、自分が発信した情報をどこまで検証していくのかなどを話しています。今回の内容も間違いなく、伝えていきたい」(小森理事)

 開示命令はいじめの加害者に反省を求める機会となる一方で、男子生徒のPTSD(心的外傷ストレス障害)は未だ改善されない。

 被害者の心の傷はなかなか癒えない。なお、いじめの対応に関して、被害生徒は川口市を訴えている。12月の口頭弁論で市側は、事実関係の一部を否認して、争う姿勢を示している。