2つ目のエピソードは、骨折で3カ月入院したことをきっかけに、脳梗塞の後遺症が残る夫を介護施設に入れて一人暮らしをはじめた中武ヒデ子さん(81歳)。スタッフの取材依頼に「恥ずかしい」と言いながらも満面の笑みを浮かべ、5分で部屋を片付けて服を着替え、「犬のおもちゃが話し相手」と語りました。

 さらに番組は2日後、1年ぶりに一時帰宅する夫と過ごすシーンを後追い取材。「どうっちゅうことない」と言いながら幸せそうに笑い合う姿にほっこりとした気持ちにさせられました。

 どちらのエピソードも、自らの人生観を絡めて考えさせられるうえに、夫婦や親子で話し合えるもの。東洋経済オンラインでも「孤独死」「老後や介護」などがテーマの記事がアクセスランキングの上位に入るように、孤独や高齢層の生き方は、当事者のみならず幅広い層にとっての関心事です。

「老後資金に2000万円」という金融庁の試算が物議を醸し、16日(日)にNHKが「どう分かち合う 夫婦の老後」というドキュメンタリー特番を放送することからも、長くなる一方の老後に対する注目が高まっているのは明らか。つまり、「ポツンと一軒家」は、そんな現在の視聴者感情をくみ取った番組だから支持されているのでしょう。

「幸せとは何か?」に対する答え

 見逃せないのは、現代の視聴者を癒やすような番組の世界観。

 9日の放送でも、山奥での暮らし、結婚と跡継ぎ、老老介護などの難しさでシビアなムードを漂わせつつも、住人の「それでも幸せ」と言う笑顔や、取材スタッフに対する優しさに癒やされる視聴者が多かったようです。

 取材スタッフからあいさつされた中武五月さんは、「よう来なさったですね……」と感極まった表情で言葉を返し、家の中へ招いてくれました。さらに、息子の中武祝亮さんは、「ご飯、食べていってください。何もないけど。カメラマンさんも食べてください」と食事を勧めてくれたのです。

 一方の中武ヒデ子さんは、1年前からの一人暮らしにも「寂しくないです。わが家ですから」。嫁いで52年が過ぎた今思うのは「ここへ来てよかった。何の不自由もないですから」と明るく話していました。夫が病に倒れて棚田が荒れ果て、飼っていた牛を手放し、自身も電動車椅子が欠かせない生活になっても、「前向きに。これでいいんだって。『天才バカボン』のお父さんと一緒で」と笑っていたのです。