1票にとてつもない重みがある

 無頼系独立候補、いわゆる「泡沫候補」の取材を通して、日本の選挙制度の問題を訴え続けているフリーランスライターの畠山理仁さんも、有権者の多様な意見を反映できない現在の選挙制度には多くの問題があると指摘する。

「議会制民主主義(間接民主主義)の日本では、有権者は選挙で自分たちの意見を反映してくれる候補を選んで国政を委託する形になります。しかし実際に選ぼうと思っても、候補者の選択肢は非常に限られているのが現状です。

 例えば有権者の多くは会社など、なんらかの組織に属して働いている人ですが、彼らが議員に立候補しようと思うと高い供託金を払うだけではなく、休職や退職をしなくてはならないため、リスクはとても高くなる。

 結果的に、選挙に出てくるのは、代々政治家をやっている二世三世候補や、会社を退職した人、弁護士などの自営業者や資金が潤沢にある企業の経営者などに限られてしまいます」

 有権者にとって身近に感じられる候補がいなければ当然、投票率も低くなる。多くの人が、自分の1票の価値を低く見積もりすぎていることも、投票率の低さの原因だと畠山さんは言う。

「現在、日本の選挙の投票率は、国政選挙でも50%程度、地方選だと30%を割ることもあります。実は投票に行かない人たちがいちばんの多数派なのです。例えば“泡沫”扱いをされていた『NHKから国民を守る党』は4月の統一地方選で地方議員の数を39人に増やしました(現在は31人)。NHK批判というわかりやすい主張だけに絞ったことで、これまで選挙に行かなかった層を掘り起こした」

 選挙に行かない層の多くは、自分たちが1票や2票入れたところで勝てるわけはないと考えがちだ。だが実際には、そういった層にこそ、政治を大きく逆転させる力がある。与党が最も恐れるのは、その層が自分たちの力に気づくことなのだ。

「無収入の人も年収1億円の人も同じ“1票”を持っている。そんなすごい権利を簡単に捨てて他人に白紙委任するのは、あまりにもったいない。最初から勝ち目がないと思わずに、彼らの言っている政策や主張に耳を傾けてみれば、自分の気持ちに近い主張をしている候補がきっといるはずです」(畠山さん、以下同)

 候補者を選ぶ重要な基準のひとつが、選挙公報だ。畠山さんは現在、選挙期間中に発表される選挙公報を、選挙終了後もホームページなどに残しておくよう各自治体に働きかけるキャンペーンを行っている(https://www.change.org/p/選挙が終わっても選挙公報を消さないでください)。

選挙の際、候補者がどのようなことを約束したか、その約束をきちんと守ったかどうか、有権者が選挙後にチェックする手段は非常に限られています。候補者のSNSやサイトは都合が悪くなれば削除してしまえますが、公金を用いて発行される選挙公報は、選挙後も見られるよう公開されておくべきです」

 当選してしまえばこっちのもの、というような態度を許さないためにも、選挙公報の継続的公開は非常に重要だ。有権者にとっても、自分の「推し」の候補者を見守り応援していくための、いいきっかけになる。キャンペーンサイトでは6月30日までに1万7600人の署名が集まり、7月1日に署名を総務省に提出した。

「僕は日本国民が全員立候補したらいいと常々言っています。みんなが1度は選挙に出てみれば、候補者がどれだけの思いで立っているかがわかるし、自分の1票を簡単に捨てるということができなくなるはず。そのくらいの思いで、各候補者の声を聞いて、1票を投じてほしいですね」

(取材・文/岩崎眞美子)


岩崎眞美子 ◎フリーランスライター。1966年生まれ。音楽雑誌の編集を経て現職。医療、教育、女性問題などを中心に雑誌や書籍の編集に携わる