テレビ岩手が開局50周年を記念して制作したドキュメント映画山懐に抱かれて』が、SNSや口コミで話題を集め、静かなブームになっている。

愚直に山地酪農を続ける家族の物語

 岩手県田野畑村で1年中、山に牛を放牧して育てる自然にこだわった“山地酪農”に挑む、9人の吉塚ファミリーに24年間密着。ニュース番組のコーナーとして定期的に放送していたものを、1本の映画にまとめたものだ。

 先日発表された『第45回放送文化基金賞』のテレビドキュメンタリー番組部門では、ローカル局の番組ながら奨励賞も受賞した。

「もともと報道部の記者で、農業系のテーマをよく担当していたんです。密着を始めたころは米や肉の自由化が話題になった時期で、農産物で知られる岩手県で働く者として、自給率を上げることに関心がありました。

 そんなとき、自然の草などで育てる自給率100%の山地酪農の存在を知り、取材をすることに。最初はニュースの中の1回の企画のつもりでスタートしたので、ここまで長く続けることになるとは思ってもいませんでした(笑)」(遠藤隆監督、以下同)

 第1回の放送も特別、好評だったというわけではなかったものの、吉塚家の子どもたちに惹かれて3~4か月に1回のペースで密着を行うように。

山地酪農にこだわる“頑固親父”のもとで育っているとは思えないほど(笑)子どもたちが明るい。生活も楽ではないのに、幸せそうで。だから番組で放送していたときは『ガンコ親父と7人の子どもたち』というタイトルでした。’96年に日本テレビで初めて放送し、計4回全国でも放送したのですが、’01年に『ギャラクシー賞』を受賞できたのも、吉塚一家が魅力的だったからだと思います。うまくいかない家業について、息子が涙ながらに父親に提案するシーンがあるのですが、そのときはカメラマンも涙を流して撮影していたほど」

 24年間をかけて撮影した総時間は1000時間。泣く泣くカットしたシーンも多かったというが、遠藤監督がこの作品で伝えたいこととは?

“忖度”する政治家や嘘をつき通そうとする芸能人など、今は楽して稼ごうとする人たちが多い時代。そんな中、貧しいながらに愚直に山地酪農を続け、まっすぐ生きている家族の姿を見て、本当の豊かさとは? など、何かを感じ取ってもらえたらうれしいです

映画『山懐に抱かれて』
長年、『田野畑村山地酪農牛乳』を愛飲する室井滋がナレーションを担当。今月20日まで埼玉・深谷シネマ、新潟・高田世界館などで上映中。以後、順次全国公開される。