京成電鉄の今後を握る
オリエンタルランド

 当然ながら、東京ディズニーリゾートは観光業界、鉄道・航空業界にとって非常に大きな存在である。

 来園者の約4割近くは関東以外(海外含む)から訪れており、新幹線や飛行機を利用する人も多い。

 羽田空港を発着するリムジンバスは、東京ディズニーリゾートエリア便が10~15分間隔で、新宿エリア便には及ばないものの、池袋エリア便、渋谷エリア便よりも高頻度である(いずれも現在は大幅減便している)。東京ディズニーリゾートがなければ、新幹線や飛行機の本数も減るに違いない。

 その東京ディズニーリゾートを訪れる人が、今年に限っては、例年の1/3以下になる見込みだ。各業界に大打撃を与えて当然である。

 その中でも、京成電鉄は特別な痛手を受ける。オリエンタルランドの株を約22%保有しているため、鉄道・バスの利用者減少だけでなく、もっと直接的な影響を受ける。

 京成電鉄といえば、成田空港への輸送は担っているものの、JRに比べて沿線が発展しておらず、華やかな印象はない。東京ディズニーリゾートとは真逆のイメージである。

 しかし、ディズニーランドの誘致を考えたのは、京成電鉄の川崎千春(「崎」は正しくは「立さき」)だのちに同社社長になった人物である。オリエンタルランドも、京成電鉄本社の片隅からスタートした。

 三井不動産もオリエンタルランドに出資したが、保有比率を下げたため、現在では京成電鉄が圧倒的な筆頭株主だ。

 コロナの影響がなかった2018年度で見ると、京成電鉄(連結)の営業利益は316億円、経常利益が507億円である。営業利益と経常利益に大きな差があるのは、営業外収益にオリエンタルランドの数字が入るからだ。子会社ではないため営業利益には含まれないが、「持ち株法による投資利益」として連結決算に入る。

 京成電鉄を他の大手私鉄と比較すると、営業利益では見劣りするが、経常利益はそれなりの規模になる。小田急電鉄(連結)は営業利益が521億円、経常利益が497億円なので、オリエンタルランドのおかげで、京成電鉄は経常利益で小田急電鉄と肩を並べる。

 今年度の京成電鉄は、当然ながら営業利益が大赤字になる。そのうえ、オリエンタルランドの赤字により、経常利益がさらに悪化する。中間決算時点では、経常利益が267億円の赤字になると予想された。

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 京成電鉄の営業利益は、運輸業だけで7割を占めており、他の電鉄会社と比べて運輸業への依存度が突出している。言い換えれば、驚くほど他事業が発展していない。

 これは、経営不振の時期に事業撤退した名残であり、それを現在まで引きずっている。

 上野にもあった京成百貨店は、いまでは水戸に残るのみ。成田空港への輸送は担うが、外国人旅行者を泊めるホテルも少ない。致命的なのは、大きな利益を生む不動産業の規模が小さいことだ。

 コロナ禍にあっては、ホテルや観光施設の規模が小さいことは不幸中の幸いだ。支えとなるべき不動産業は小さいが、運輸業以上に足を引っ張る事業はない。

 オリエンタルランドは、今年度は赤字だが、回復は早いだろう。海外から訪れる人は全体の1割ほどで、インバウンドの影響も限定的だ。

 今後の京成電鉄は、オリエンタルランドさえ復活すれば、営業利益は赤字のままでも、経常利益で黒字化できるだろう。ディズニーランドの誘致成功は、他の事業の低迷を補って余りある。


文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『明暗分かれる鉄道ビジネス』『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』などがある。