風来坊という寅さんの設定は、ご当地ものの魅力にもつながっている。『男はつらいよ』では毎回物語の舞台が変わる。最終的に、44都道府県が撮影地になった。地元の人たちは、見慣れた風景や名所のなかに寅さんやマドンナがいるのを見て、いっそう親しみを感じたことだろう。また地元以外の人たちにとっては、ちょっとした観光気分を味わえる。

 同じく長寿シリーズとなった映画『釣りバカ日誌』(1988年第1作公開)やドラマ『水戸黄門』(TBSテレビ系、1969年放送開始)もそうであるように、こうしたご当地感覚も長寿シリーズになった要因だろう。

 そして、ホームドラマとしての安定感も大きい。どこにでもありそうな家庭の出来事を涙あり笑いありで描くホームドラマは、観客や視聴者にとって共感しやすい。ドラマにおいても、驚異的な視聴率をあげた『ありがとう』(TBSテレビ系、1970年放送開始)、つい先日亡くなった橋田寿賀子脚本による『渡る世間は鬼ばかり』(TBSテレビ系、1990年放送開始)など、ホームドラマには長寿シリーズ化するものも少なくない。

男はつらいよ』の場合は、倍賞千恵子演じる妹のさくら、そして葛飾柴又の帝釈天で団子屋を営むおいちゃん家族らと寅さんのやり取りに、いつも変わらない安心感、マンネリならではのよさがあった。

刑事ドラマが長寿化する理由

 ただ一方で、安心感だけでなく、ハラハラドキドキさせてくれるのも、長寿シリーズ化の理由になりうる。

「私、失敗しないので」の決めゼリフで有名な米倉涼子主演『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日系、2012年放送開始)のような医療ドラマシリーズにもそういう面があるが、もう1つその点でぴったりなのが、刑事ドラマである。刑事ドラマには当然事件が付き物で、そこに謎解きの要素が生まれるからだ。また1話完結スタイルの作品も多く、毎回違う事件が起きることで、新鮮さも保たれる。

 1994年に始まった『古畑任三郎』(フジテレビ系)などは、まさにそうだろう。第3シーズンまで作られ、ほかにもスペシャル版などが放送された。

 ここでも、主人公の魅力は大きい。主演の田村正和が演じる古畑任三郎は警視庁捜査一課の刑事。見た目や振る舞いは紳士的だが、時々負けず嫌いな一面ものぞかせる。事件現場に愛用の自転車でやってくるところなど、ちょっと変わってもいる。独特の雰囲気があり、よく物まねもされた。犯人役でも出演している木村拓哉が『SMAP×SMAP』(フジテレビ系、1996年放送開始)でパロディコント「古畑拓三郎」をやっていたことは有名だろう。