夫婦別姓のため「ペーパー離婚」する実情

 陳情アクションのメンバーには、本来の名字を取り戻すために「ペーパー離婚」をする人たちが少なくない。

 ペーパー離婚とは、法的には離婚して姓を変えるものの、実生活ではこれまでどおりの結婚生活を継続して「事実婚」の状態へ切り替えること。女性誌『VERY』で活躍するモデルの牧野紗弥さんが告白したことでも話題になった。

VERYモデル・牧野紗弥さんのインスタグラムでは、取材を受け、夫婦別姓について思いを語ったとの報告も
【写真】嫁入り後、義父に強制的に作らされた“家紋入りの喪服”を着る井田さん

 大阪在住の奥西由貴さん(32)と木村知玄さん(32)も近々、ペーパー離婚を予定している。

 奥西さんは製造業の会社のIT部門で働き、木村さんはメーカーの研究職に就いている。2人は'16年に結婚。その際、どちらの姓を選択するか話し合った。奥西さんは「生まれ持った名前を変えたくなかった」と言う。

「私は自分の名前に愛着がありました。でも、夫が研究職なので、姓を変えるとキャリアの分断になってしまう。そのため仕方なく戸籍上は木村姓となって、業務上は旧姓で働いていました」

 なんの問題もないと思っていたが結婚後、時折、違和感を持つことがあった。

「銀行や病院に行くと、戸籍上の姓で呼ばれますよね。健康診断でもそう。自分で認識していない名字で呼ばれることに抵抗はありましたし、ことさらそれをオープンにしたくないと思っていました」

 しかし、同僚からは「本当は木村さんなんでしょ?」、「ラブラブのくせに、なんで?」などと冷やかされ、戸惑う毎日。

 このままでいいのだろうか? そんな思いがぬぐえなかったころ、奥西さんのもとに免許更新のハガキが届く。

「私はゴールド免許なんですが、今までは免許証の表面の名前は“奥西由貴”で、裏面に結婚後の木村姓と“旧姓を利用した名前”が両方書かれていたんです。例えばコンビニで荷物を受け取るときなど、免許証を見せれば“奥西さんですね”と言われ、特に問題はありませんでした。

 ところが、新たに免許の更新をすると、免許証の表面が“木村(奥西)由貴”という表記になるとわかった。自分は誰なんだという思いが込み上げてきて、そもそもなんで自分が名乗りたい名前を選べないのか、疑問に思うようになったんです

 2人で時間をかけて話し合った結果、夫婦別姓にするため離婚し、事実婚へ切り替えることを決めた。奥西さんは母親へ「本当は奥西として生きていきたい」と折に触れて伝え、理解を得たという。

 医療従事者として働くYさんは、20年前に結婚し、出産した直後にペーパー離婚して事実婚となった。

「そもそも結婚自体は望んでいました。子どもを授かったときにどうしようかとなって、当時は婚外子に対する差別もあったので、出産直前に婚姻届を出しました。結婚の合意はあって子どもを持ったんだという形にしたかったので。生まれた子どもの出生届を出して、産休中にペーパー離婚をして、元の名前で職場に復帰しました

 Yさんに、なぜそんな方法を取ったのか理由を聞いた。

「よく聞かれるんですけど、私にしてみれば、生まれ持った名前を名乗るのに理由を求められることのほうがおかしい。変えたい人は理由があるだろうけど、変えたくない人に理由はない。自分が実績を積んできた氏名だし、私の名前だから、というだけ」

「最初から事実婚にしておけば」と後悔

 北海道に住む佐藤さんと西さん夫婦も、結婚届を出してから半年後の昨年8月、事実婚に切り替えた。2人は共に病院職員として働いている。

 妻の佐藤さんが言う。

「私は自分の名字のままでいきたかったけど、どちらかが変えなきゃいけない。やっぱり男性が名字を変えると“婿養子なの?”とか“妻がいいおうちの人なの?”とか、いちいち聞かれたりするだろうな、彼も名字を変えるのは嫌だろうなと思いました」

 本当は、「最初から事実婚にしておけばよかった」と後悔している。

「結婚届を出した当時は今みたいに仲間もいなかったし、やはり社会とか職場や家族のことを考えると、これでやっていくしかないな、となかばやけくそな感じでした」

 それでも、「なんで嫌な思いをしてまで生きていかなければならないのか」と悩んだ末、事実婚という選択にたどり着いた。ここに挙げた3組は、選択的夫婦別姓が認められていれば、そもそも離婚しなくてもよかった人たちだ。

 陳情アクションのメンバーで事実婚を選択するカップルは増えている。だが、当事者になって初めてわかるデメリットも多い。

 例えば、法的に「配偶者」とは認められないために、配偶者控除を利用することができない。前述した井田さんのケースのように、入院や手術の同意書に家族としてサインが認められないことがある。

 最大のデメリットは、事実婚のパートナーには相続権がないことだ。有効な遺言書がなければ、遺産は亡くなったパートナーの親族などが相続人となる。また、子どもが誕生した場合は、自動的に親子であると認められるのは母子関係のみ。父子関係は改めて認知の手続きをしなければ戸籍に記載されることはない。

 先述した奥西さんと木村さん、佐藤さんと西さんの両カップルも、今のところ子どもを持つことは考えていないと言う。だが、「いつか選択的夫婦別姓が現実となった暁には、考えたい」と口をそろえた。