家族が世話しても「家族全員感染」の危険が

 入院と自宅では、療養の日々は大きく異なる。病院であれば食事は必要な量が3食出され、水が飲めなければ点滴が行われる。日々の体調チェックがあり、急変すればその場で必要な治療が受けられる。

 しかし自宅では、食事や飲料の管理は基本、本人任せだ。自治体から支援物資が届くようになっているものの、内容はカップラーメンやレトルト食品など日持ち優先。中には「乾パンが届いた」という話もある。

 酸素濃縮器を使う場合、パルスオキシメーターで酸素飽和度をチェックしつつ、酸素の流量を調整することが推奨されているが、ただでさえ肺炎を起こしている中で、自分自身でそれを行うのは簡単ではない。家族が世話すれば?と思うが、デルタ株の感染力は強く、どれだけ気をつけても「家族全員感染」という危険が伴う。いわば八方ふさがりの不安の中、体調の急変が起きぬよう耐える日々が待っている。

「これはね、災害医療なんですよ」

 男性の往診を終え、別の患者の対応に向かう車中、ハンドルを操作しながら佐々木がつぶやいた。

佐々木淳医師(医療法人社団 悠翔会理事長・診療部長)
佐々木淳医師(医療法人社団 悠翔会理事長・診療部長)
【写真】炎天下、訪問先へ酸素濃縮器を運ぶ医師とスタッフ

 地震や大水害の際、医療や行政のサービスが途絶し、病気で治療中の人などが命の危機に瀕することが少なくない。感染爆発で医療機能の一部がマヒした都内は、それと似た状態になっているというのだ。佐々木が率いる悠翔会グループは失われる命を少しでも減らそうと、コロナ自宅療養者専門の往診ルートを開設。その資金を募るためのクラウドファンディングも実施している(https://readyfor.jp/projects/yushoukai)。

 悠翔会は、首都圏などに18クリニックをもつ在宅医療グループ。コロナ感染拡大に伴い、東京都医師会からの要請を受けて在宅コロナ患者への往診をスタートさせた。各地域の保健所から依頼を受け、通常診療と並行しながら往診対応してきた。しかし要請が急増、多くの対応を迅速に行うために8月24日から「コロナ専門往診チーム」を発足し、自宅療養の患者のもとへ最大3ルートで医師や看護師が回っている。

 9月に入り、ようやく新規の感染者数が落ち着きつつあるが、重症者などは感染がピークを迎えて少したってから増えるので、まだまだ楽観視できない。

 佐々木によれば、自宅療養で状態が悪化した人の場合、「持病なし」と言っていても、調べると高血圧や高血糖などが見つかるケースが少なくないという。定期的な健康診断を受けていない場合、知らないうちにコロナが重症化する要因を抱えている可能性もあるということだ。

 いま医療体制が「災害状態」になっている地域では、感染対策やワクチン接種を進めるのと同時に、日々の健康管理や体調のチェックにも気を配ったほうがよさそうだ。

市川衛さん (社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。'00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。'16年スタンフォード大学客員研究員。'21年よりREADYFOR(株)室長として新型コロナ対策などに関わる。