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ー トー横広場で定点観測、見えたのは地獄絵図

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 トー横広場に寝そべっていた少女は仲間と思われる男たちに爆竹で起こされ、何語かもわからない言葉を叫んでから、再び寝た。平日の昼間2時の話である。

トー横広場で定点観測、見えたのは地獄絵図

 眠らない街といわれる東京・新宿歌舞伎町。JR新宿駅東口を出てまっすぐ歩いていくと突き当たりにゴジラヘッドが目印の東宝ビルがある。このビルに沿って延びる生け垣のへりが「旧トー横」と呼ばれる場所で、現在は東宝ビル前にあるシネシティ広場が「トー横キッズ」たちが集う場所となっている。今年4月にオープンした歌舞伎町タワーの目の前だ。

「'18年ごろからトー横キッズという存在がクローズアップされるようになり、これまでに逮捕者や死者が複数出ています。彼らの存在がTikTokやインスタグラム、ツイッターなどで拡散され、今では毎日のようにトー横のもめ事がアップされている」

 とはトー横事情に詳しいジャーナリストの渋井哲也さん。

 本当に毎日もめ事が起きているのだろうか。安全だと思われる日中の14時から15時の間、実際に立ってみると──。

【6月某日、14時】 トー横前に到着。まずはゴジラ側で観察することに。定位置といわれる広場隅には複数の若い男女がストロングチューハイを飲み座り込んでいるが、キッズはほぼいない。広場中央には着ぐるみを着て寝ている若い女性の姿。

【14時5分】 新宿区役所の職員らが来て放水を開始。寝そべりや座り込みを防ぐためだと思われ、寝ていた着ぐるみ女性や男女らは端っこに避難した。記者は歌舞伎町タワー側に移動。

【14時12分】 交番の警察官が4人見回りに訪れ、キッズらに声かけ。警察の存在など気にも留めずにTikTokを撮影するキッズら。

【14時21分】 声かけの末、20代と思われる黒い服の男が警察官に連行されていく。同時に警察官がいなくなった途端、待ってましたとばかりに広場の中央に数人の中年(トー横シニアと呼ぶらしい)が寝そべり酒盛りを始める。

【14時34分】 突然、爆竹音が鳴り響く。冒頭の場面だ。歌舞伎町タワー側の観光客が驚きの声を上げるが、広場にいるトー横住民は誰も驚かず、音の鳴るほうを見もしない。

【14時36分】 再び数名の警察官が訪れる。なぜか盾を持っている。広場中央で寝るシニアたちには声をかけない。

【14時57分】 再び20~30代と思われる男が連行された。

 以上が1時間、記者が立っている間の記録である。印象的だったのは誰かに何かがあっても周囲は気にも留めないことだ。前出の渋井さんは、

「トー横は居場所がない若者や、中年が集まる所。お互いの素性を詳しく知らない。その上で刹那的に酒を飲んだり、睡眠薬を飲んだりしながら酩酊状態で過ごしている。そんな中で問題が起きないほうがおかしい。数時間もここにいれば感覚が麻痺してしまうんです」

 多様性が叫ばれる時代ではあるが、記者にはトー横が地獄絵図にしか見えなかった。こんなダイバーシティは誰も望んでいない。