演歌歌手を超えたノンジャンルボーカリスト

 面白いキャラクターになったからといって、歌の魅力が落ちるわけではなかった。付き人として'86年ごろから天童の歌を間近で聴いてきた歌手のおおい大輔(58)は言う。

「ステージでご一緒したり、観客席から聴いたりしても、天童さんの歌って、なんでこんなに泣けるんだろうと思うんですよね。同じ曲を何回も聴いているのに」

 その秘密について、天童の音響にも携わってきた前出の安念さんに聞くと、「天童さんの歌には人の魂を揺さぶる特徴がある」と言う。

「ひとつは声のパワーです。ロングトーンの声を出しても減衰するどころか、声がひと山もふた山も伸びていく。高出力のターボエンジンを積んでいるかのようです。そして倍音です。1人の声で幾重にも音が重なって和音が鳴っているような印象で、それが豊かだから人の魂の中に入っていくのだと思います」

 その才能は、海外でも評価された。2004年、ディズニー映画『ブラザー・ベア』の劇中歌『グレイト・スピリット』を日本語で歌う歌手を探していたときだ。J―POPを中心とした複数の歌手のサンプル音源がアメリカに送られた。その中に天童のものも入っていた。選ぶのは、映画の音楽プロデュースを担当したドラマーのフィル・コリンズ。彼が白羽の矢を立てたのが天童だった。

「アメリカでは同じ曲をティナ・ターナーさんが歌っているんですよ。めっちゃ高いキーを裏声を使わずに歌わなければならない。本当に出せるかなとずっと不安でした。喉から血を出してもやるぞ、という覚悟で臨みました。するとね、出せたんです。ホッとして泣いてしまいました」

 できあがった作品は、“ロックの女王”ティナ・ターナーに引けを取らないパワフルでソウルフルなものになっていた。それがきっかけになったのか、新しいチャレンジをするようになる。

 '05年には、『こぶしのない夜』というライブを開催。バンドメンバーには、冒頭に登場したドラムのそうる透、ベースの高橋ゲタ夫などロックやJ―POPなどを主戦場とするミュージシャンが参加。曲もアップテンポのポップス、ロック、ジャズ、沢田研二メドレー、アニメソングなど、これまでの天童からは想像もつかない内容だった。

「最高でしたね。そうるさんたちはそれ以来、私のバンドメンバーになってくれてね。演歌のリハーサルは1日で終わることが多いんですが、そうるさんたちが入ってからは、約1週間かけて私の歌に合わせて演奏を作ってくれる。だから毎回、演奏に酔わされてしまうんです。でも私は“負けるか”と思って、タイミングを少しズラしてみたり、それがすごく楽しいんです」