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2003年の紅白の衣装「孔雀」
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歌手・小林幸子の「挫折と栄光」

〽無理して飲んじゃいけないと

肩をやさしく抱きよせた

 おそらく、日本国民の中高年のほとんどがこの曲を口ずさめるに違いない。

 ’79年の小林幸子の大ヒット曲『おもいで酒』である。200万枚という驚異的なセールスを記録したこの曲をきっかけに、歌手・小林幸子は一流歌手の仲間入りを果たし、その年の暮れには紅白初出場、「全日本有線放送大賞」グランプリ、「第21回日本レコード大賞」最優秀歌唱賞を獲得した。しかし、そこに至るまでには長く暗い道程があった。

 それは、まさに昭和歌謡ドラマそのものだった。

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『思いで酒』で、一躍スターの座に

 新潟市内に生まれた歌が大好きな娘は1963年、小学4年生のときに、テレビの視聴者参加型の歌謡・ものまね番組に参加し、グランドチャンピオンとなる。そして審査委員長の作曲家・古賀政男にスカウトされ、翌年、『ウソツキ鴎』でデビュー、いきなり20万枚の大ヒット作となった。

 "天才少女歌手""美空ひばり二世"と呼ばれ、歌手としてだけでなく、映画やドラマの子役としても活躍。

 しかし、デビュー曲以降、ヒット曲に恵まれず、15年もの間、不遇の時代を送る。10代の少女がたったひとり、全国各地を回り、地元のラジオ局やレコード店、有線放送局などでキャンペーンを行い、夜になると飲み屋やキャバレーに年齢を偽って出演。酔客を相手に歌い続ける日々を送った。

 ところが。小林25歳、28枚目のシングルレコードのB面だった『おもいで酒』が、有線放送から徐々に火がつき、ついにはミリオンセラーを記録したのである。その後も、『とまり木』『雪椿』などの大ヒット曲が続き、’87年には、大手芸能事務所から独立し、個人事務所の「幸子プロモーション」を設立する。

 勢いは止まらなかった。2000年には、レコード大賞「美空ひばりメモリアル選奨」受賞。’04年は紅白歌合戦で大トリを務め、’05年、日本レコード大賞「制定委員会特別表彰」受賞、’06年、「紺綬褒章」受章……。

 一方で’97年、テレビアニメ『ポケットモンスター』のエンディングテーマ、翌年には『劇場版ポケットモンスター』の主題歌を歌った。ヒット曲とともに、日本中の話題を集めたのが、紅白での豪華衣装だった。

 ’90年代以降は、しだいにその衣装は「装置」と化し、ワイヤーで吊り下げたり、特殊リフトで上昇したり、大量の電飾を使ったりと、仕掛けは年を追うごとに大がかりなものとなり、巨大化の一途をたどった。そして「小林幸子の紅白の衣装」は、年末の風物詩とさえ言われるほどになっていったのだ。


取材・文/小泉カツミ