安倍内閣が目玉に掲げる成長戦略の"女性活躍"の推進。女性に一見、働きやすい時代になったように映るが、

「同じような動きは’80年代のバブル時代にもありました。男女雇用機会均等法が’85年に制定され、当時の企業も新しい市場として女性向けの商品開発を目指して、女性社員を商品開発に起用しました。ピンク色のビールや女性が好むデザインの自動車などが誕生。ですが、ピンク色のビールを開発した女性社員は結婚退職したと聞きましたし、ほとんどが一時的な流行で終わりました」

 当時の様子を残念そうに語るのは、和光大学の竹信三恵子教授(労働社会学)。

「権限のある男性幹部社員は"女性を活用する"と言いながらも知恵を利用するだけ。意思決定機関に女性を入れようとはしませんでした。そのくせ結果が出れば"俺の手柄""彼女は俺が育てた"となるわけですから、女性からすればたまったものではありません」

 決定権を持つ9割以上は男性。そんな既存の枠組みは変えず、都合よく女性を使い捨てた。やっていられないと職場を去るのも無理はない。竹信教授によると、海外に比べて日本はかなり遅れをとっている。

「’90年代半ばにフォルクスワーゲンの女性活用課長にインタビューしたことがあります。"なぜ女性を活用する必要があるのか?"と質問すると、"消費者のニーズに応えるには、多様な視点が必要。人口の半分を占める女性の体験を反映させる仕組みがなければ、社会の半分の知恵しか生かせない"と答えました」

 同社は、女性役員を増やすことを目指して、大学の理科系を回って技術畑の女性をリクルート。さまざまな実務についてもらうなどして、役員になれる人材の促成栽培を行ったという。

「先ほどの日本企業の女性活用と、大きな落差があることがよくわかります」

 だが、ここへきて女性たちの社会進出を促す政策が推進されている。経済は低成長時代に突入、さらに少子高齢化に伴い人口減少が続く日本では、今後、働く人の数も減り続けていく。そこで多くの女性に社会で働いてもらうことで、労働力を補おうとする。それが現在、国会で審議されている『女性活躍推進法』だ。

「この制度を簡単に説明すると、活躍度の"見える化"。社員数が301人以上の企業は、"採用者の女性比率""勤続年数の男女差""労働時間の状況""管理職に占める女性比率"などの目標数値を決めて、その結果を公表します」

 ただ、現状の法案は、女性社員がどれくらい育休をとっているかがわかる"育休取得率"など、子どもを持って働くために不可欠な数値が、必ず公表しなければならない数値目標項目には入っていない。

「これでは女性を"スカートをはいた男"として活用しようということになりかねません。家事や育児をしてくれる妻がいる人を標準労働者とした現状の働き方を変えなければ、女性が仕事と家庭を両立しながら働く環境にはならない」

 いまや働く女性の6割が非正規社員。育休はおろか交通費も満足に出ないというケースも珍しくない。一部の特権的な女性だけでなく、さまざまな働き方をする女性たちも輝けるような政策が必要だろう。また、法律を作っても実現可能なものでなければ、しょせんは絵に描いた餅。女性活躍推進法では、企業に女性の管理職を積極的に登用するよう数値の公表は義務づけているが、達成すべき数値目標の水準は決められていない。達成水準がはっきりしないのだから、増えなかった場合の罰則もない。努力目標にすぎないのだ。