上司や電車で隣り合わせたおじさんが放つ、洗濯物の半乾きのような臭気。中高年男性特有のニオイと誤解されがちな加齢臭に40代以降の女性が自分かも? と悩んでいる。

 そもそも加齢臭とは、

「中年以降の男女にみられる独特な体臭の俗称であり、正式な医学用語ではない。加齢臭の原因物質は『2-ノネナール』。日本の化粧品会社が2001年に発表しました」

 そう説明するのは東京・千代田区の大手町アビエスクリニック・早田台史院長。加齢臭の発生部位については、

「全身の汗腺で発生しますが、背中や胸が多いです。耳の後ろ、首筋、頭皮のニオイも加齢臭といえるでしょう」

 『2-ノネナール』は、男女ともに40歳を越えたころから急激に増え出す。東京・新宿区の五味クリニック・五味常明院長によれば、

「それ自体はそんなに不快なニオイではないんですが、アンモニアやジアセチルなど臭い物質と混ざると、強烈なニオイになります」

 加えて女性の場合、更年期特有の症状『ホットフラッシュ』に見舞われ、ほてり、のぼせとともに、顔や首などに大量の汗が噴き出るようになる。加齢臭と混ざって、知らず知らずのうちに悪臭を放ってしまう。五味院長が解説を続ける。

「女性ホルモンの分泌量が低下する更年期は、自律神経や血管運動神経などの調節機能、体温調節機能が乱れ、急にカーッと熱くなり汗をかきます。この現象が『ホットフラッシュ』と呼ばれるものです。相対的に男性ホルモンが増えて汗が出やすくなる。人前で緊張したりストレスを感じたときに汗が出る『神経性発汗』、汗をかきにくくなった下半身のかわりに上半身から多く汗が出る『代償性発汗』が重なります」

 濃度の濃い汗は蒸発しにくく、身体にべったりとまとわりつく。しかも強臭。

「閉経後には加齢臭がさらにひどくなり、発汗が減少する高齢になるまで続きます」(早田院長)

 嗅覚が敏感で美意識も高く若いうちからニオイや汗に気を遣ってきた女性は、自分が放つ強烈な加齢臭にショックを受け、ガク然としてしまう。それでもニオイを抑える対処法はちゃんとある。生活の中でどんな工夫ができるのか?

 人間が身体から放出するすべてのニオイの原因は食べ物にある、と強調する五味院長は、「ニオわない汗をかく食事が重要。腸の中にニオイを作らないよう腸内環境を整えること。善玉菌を増やすために、食物繊維、乳酸菌、オリゴ糖の3つを重点的にとりましょう」と呼びかける。ニオイを助長するアンモニアと乳酸を抑えるため、効果的な飲食物があるという。

「オルニチンを含むしじみ、お酢と柑橘類でクエン酸を積極的にとること。加齢臭のもとになる活性酸素を抑制する抗酸化物質は赤ワインやチョコレートに入ったポリフェノール、ニンジンのベータカロテン、緑茶のカテキン、しょうがやわさびなどの香辛料に含まれています。オリゴ糖が多いごぼうや玉ねぎ、はちみつは善玉菌を育ててくれますし、食物繊維が多い切り干し大根、干し柿、干しひじきなどは、悪玉菌が排出した毒素などを便として排出してくれます」

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加齢臭の強さには食生活や日々の習慣が大きく影響する。正しい対策を今すぐ実践しよう

 一方、早田院長は、食生活が偏ると体臭が強くなる傾向があると指摘する。

「ヨーグルトが効果的です。腸内でアンモニアや硫化水素、メタンガスなどを発生させる体臭の原因物質を抑えます。大豆のイソフラボンに含まれるエクオールも、更年期症状の改善に効きます。大豆を食べてエクオールを作り出せるのは日本人だと50%ほどで、尿の検査でわかります。エクオールそのものも医薬専売品になっています」

 最近、更年期症状の改善に有効とされている『オメガ3脂肪酸』についても、同院長は積極的摂取を訴える。

「魚類や亜麻仁油、えごま油などに含まれているEPA/DHAがこれにあたります。厚労省も1日1000ミリグラムの摂取を推奨。まぐろの脂身などは含有量が多くおすすめ」

 生活習慣でいえば、「深酒をせず、禁煙を」と呼びかける五味院長。ストレスをためないことも大切という。運動面ではウォーキングや水泳などの有酸素運動が有効で、汗腺トレーニングという聞きなれない取り組みも重視する。

「機能が低下しやすい手足の汗腺の働きをよくするトレーニングで、高温の湯で手足を温め、36度のぬるま湯入浴をし、入浴後はクーラーなしで体温を下げるようにします」

 このほかニオイの原因になる垢、雑菌を防ぐために清潔を心がける。五味院長は、新たな手立てとして『塩洗髪』の浸透を図っている。

「3日に1回のペースで小さじ1杯の塩を入れた洗面器のお湯で髪をゆすぎ、マッサージなどをして汚れを落としたら最後にシャワーで塩を落とす。シャンプーのように常在菌を殺しつつ、皮脂を除去しすぎて過剰な皮脂分泌を促してしまう心配がありません」

 生きている限り人間につきものの体臭だが、工夫と予防策がこれだけあることは心強い。気にしすぎはよくないが、心がけは今すぐ始められる。