目次
Page 1
ー 母と離れて暮らした10~20代
Page 2
ー 人生で初めて自分で選んだ結婚相談所の仕事
Page 3
ー 「結婚したい」が「結婚しなきゃいけない」に ー 結婚を手放してようやく身軽に
Page 4
ー 心の支えになった会員からの言葉
Page 5
ー これまでの経験は無駄になっていない

 6月最初の週末、田岡智美さんの姿は代々木公園で開催された、LGBTQ+コミュニティーに関わる多様な人権課題の解決を目指すイベント「Tokyo Pride」にあった。田岡さんが店長を務める男性同性愛者向けの結婚相談所「ブリッジラウンジ」のブースで、パートナーを探す人にサービス内容を懇切丁寧に説明したり、現会員や元会員たちとの再会に顔をほころばせていた。

「私はお相手を探したいという方の相談や話は伺いますが、『“入会してください”と強要した』ことは一度もないんです。始めるか始めないかは本人が決めること。パートナーを見つけて幸せになるには諦めないことが大事ですし、『結婚しない』という選択肢で幸せになる私のような場合もありますから」

 ブース内に張られたポスターには《人の数だけ幸せのカタチがある。》という文字が躍る。これは利用者へ向けたキャッチコピーだが、未婚女性で異性愛者である田岡さんが、男性同性愛者向けの結婚相談所で働くようになった人生にもピタリと当てはまる言葉だ。“結婚をしていない”田岡さんが婚活コンサルタントとして活躍するまでには、紆余曲折と試行錯誤があった。

母と離れて暮らした10~20代

小学生のころはチェッカーズのファンで「私、藤井フミヤと結婚する!」と母に宣言していた
小学生のころはチェッカーズのファンで「私、藤井フミヤと結婚する!」と母に宣言していた

 現在の仕事を“天職”という田岡さんは1974年2月20日、香川県で生まれた。ひとりっ子の田岡さんが小学校へ上がる前に両親が離婚、母と母方の祖母に育てられた。

「わりとひとりが好きな子どもでしたね。母たちは働いていたので、学校から帰ってきても家にひとりでいるのが当たり前でしたから、寂しいとかもなくて。私は人形遊びが好きで、リカちゃん人形のスカートを自分で縫ったりしていたんです。なので『は~、忙しい忙しい、今日は帰ったら服作って遊ばなきゃ!』みたいな感じで」

 地元の公立小学校を卒業後、娘に良い教育を受けさせたいという母の希望で、隣県の愛媛県松山市にある中高一貫の女子校へ。

「寮での生活だったんですが、先輩の湯のみには下級生がサッとお茶を注ぐ、先輩と廊下ですれ違ったら端へよけて元気に挨拶する、どんなに寒くても先輩が入っていればコタツには入れないといった厳しいルールがあって、中学3年間は我慢したものの、高校の3年間もこの生活が続くのは無理だと思って母に頼んで、高校生からは市内の下宿でひとり暮らしを始めました」

 誰の目も気にすることがなくなった田岡さんは少々羽目を外して遊びすぎ、母と一緒に学校へ呼び出されながらも高校を卒業。「2年たったら香川へ帰ること」という母との約束で関東地方の短大へ進学する。

3歳の七五三。
3歳の七五三。

「母は愛情や責任感の表れだったのだと思いますが、私の進む道に対して、しっかり方向づけようとしてくれていました。一方の私は親元を離れて自由な10代を過ごしたこともあって、実家に帰るのは嫌だったんですね。でも短大の2年間なんてあっという間に終わってしまって……それで母に相談したところ、四年制大学へ編入できたらあと2年猶予をもらえることになったんです。このときがもう人生で一番勉強したと思います!」

 無事に編入試験に合格したのと同時に飲食店でのアルバイトも始めた田岡さんは、卒業後も同じ仕事を続けながら、母と交わしたUターンの約束を引き延ばしていた。

「飲食店の仕事がとても楽しくて、就職せずに働いていたんですが、大学の同級生たちが社会人になって働いているのを見て『このままじゃダメだ』と思って就職活動をしたんです。このときも母から『私が名前を知っている会社なら許す』という条件が出たんですが、なんとかクリアしました」

 教育系教材を扱う会社に入社した23歳の田岡さんは、自分に宛てて「3年は絶対辞めるな。何があっても辞めるな」と手紙を書いたという。

「飲食店で働いているときに、いいかげんな人や働かない人、思わぬ人生を歩んでいる人など、いろんな人を見てきたんです。私も勉強してこなかったし、就職活動もやらなかった。そういうだらしなくてズボラなところを自分でわかっていたので、キツかったらすぐに逃げ出しそうだな、と未来の自分を想像できたんですね。

 でも社会人になるんだったらちゃんとしないと、と思って手紙を書いたんです。それを思い出しながら頑張りました」

 きついノルマを課されながら猛烈に働く日々。そんな中、同じ職場で働く男性との交際が始まった。程なくして同棲、このまま結婚するのかと思った田岡さんだったが、母が理想とする結婚相手の条件にそぐわなかったため猛反対に遭う。