心の支えになった会員からの言葉
そこへパートナーを探しにやってきたのが、ユキさんとアキラさんだった。
「田岡さんはこちらのことをよく知ろうとしてくれて、感情でぶつかってきてくれる人。なので『淡々とすすめるだけの婚活サービスではないんだ』と思いました」と言うアキラさんに、ユキさんも「僕はあまりにお見合いがうまくいかなくて気持ちが折れそうになったとき、田岡さんが『そのままでいいんですよ』と言ってくれて、立ち直れました。それがなかったら、アキラとは会えなかったかもしれません」と同調する。
彼らが残した言葉は、今も田岡さんの心の支えになっているという。
「おふたりが成婚されて退会するときに、私を見て『田岡さんは、ずっと僕たちの光でいてね』と言ってくれたんです。それで改めて自分がやっている仕事の重大さを自覚しました。私にできるのは彼らが進むべき道に光を当て、明るいところへ連れていってあげることなんだなと。
この言葉は、何をしたら喜んでもらえるのか、それにはどんなことが必要なのか、と考えて行動するほうに舵を切らせてくれました」
成婚した幸せなふたりや、お見合いがうまくいって一緒に歩く楽しそうな後ろ姿、断られたり失恋して落ち込み、ひとり、道を帰っていく寂しげな背中……彼らを見送った大通りへと続く新宿の細い路地は、田岡さんの原点となった。そんな彼らと接しながら、田岡さんは「普通」についての考えを深めていく。
「親のために結婚しなきゃいけない、女は家のことをやって、産める間に子どもを産まなきゃいけないといった“世間での普通”という小さな箱へぎゅうぎゅうに押し込められてきた私と同じように、彼らもいろいろ悩んできたんだと感じたんです。
もちろん私のこととセクシュアリティーの悩みは違いますが、“普通”から外れてしまう怖さを感じていたのは同じだと思ったんです。それが、私が“結婚”という選択肢を手放すきっかけになりました」
それはある晩のこと。仕事を終えて帰宅している途中、ふと思い立って「私は結婚しない! 子どもも産まない!」と決めたという。
「おそらく心のどこかでずっと考え続けていたことが、突然形になったんでしょうね。でもそうしたら、めっちゃ楽になったんですよ。私は『結婚する、子どもを産む』という、いわゆる“普通”の人ができているタスクがクリアできていなかった。しかもその選択肢を、40歳を超えても捨てることができなかった。それは私にとってめちゃめちゃ重いものでした。親のこと、世間体、普通から外れてしまう怖さ……いろんな重石が心と身体についていたんです。
でも『もうしない!』と決めたら、楽になった。もちろんこれから先、結婚したいと思う人が出てくるかもしれないけど、今の時点ではそうしようと思ったんです」
このころに田岡さんと出会ったのが、婚活するゲイが主人公の『ぼくのはじめてゲイ婚活』(KADOKAWA)というマンガの企画を持ち込んだ編集者の内藤由紀さんだ。
「田岡さんは聞き上手で、この人ならなんでも話せちゃうなと思わせる方。いつもお話が面白いので、いつか田岡さんの本を出したいなと思って、企画を温めていました」