11月にかけて国民ひとりひとりに“マイナンバー”の記載された通知が届けられる。そこで提案された消費税の負担軽減とは?

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 マイナンバーの始動直前に降って湧いた、消費税の負担軽減案。8%から10%へ引き上げる2017年4月に合わせて、増税分の2%をマイナンバーのポイントとして還付するという提案を突然、財務省が発表したのだ。

 財務省案では、返ってくる金額は、1人あたり年間4000円が上限。買い物をするたびにマイナンバーカードをレジでかざし、消費税2%分の『還付ポイント』を受け取り、みずからパソコンで申告しなければ還付金を受け取れないという仕組み。

 手間がかかるうえ、いったんは10%の消費税を支払わなければならず、これで負担軽減になるのか怪しい。

「マイナンバーカードの作製は任意なのに、還付金を受けるには作らざるをえず、それも毎日、持ち歩かなければならなくなる。その一方で、政府は番号をみだりに出してはならないとして、番号を隠すケースを配布しようとしています」

 と、『共通番号・カードの廃止をめざす市民連絡会』の白石孝さんも疑問を投げかける。さらに「物理的に無理があります」と話すのは、経済アナリストの森永卓郎さん。

「カードは自分で申請しなければ作れず、作ったとしても、届いた際に不在だったら郵便業者に持ち帰られてしまう性質のもの。(消費増税される)来年4月の時点で、全国民に行き渡るとは思えません」

 たとえ製造をフル稼働しても、カードを年間4000万枚しか発行できないことを9月11日、総務省の青木信行自治税務局長が明らかにした。日本の総人口が約1億3000万人ということを考えれば、結果は推して知るべしと言える。

 また、スーパーや飲食店ら事業者側にもスケジュールの問題が。端末の設置には時間がかかるからだ。

「飲食料品を対象にすると、例えば、自動販売機にもマイナンバーカードのICを読み取る装置をつける必要があるけれど、短期間で工事はできません」(森永さん)

 還付金を受け取る段階になったらなったで、今度はマイナンバーと、ひも付けた銀行口座への振り込み手数料、そのための人件費などでコストがかさむ。誰にとっても、どこをとっても負担は大きい。

 与党内での反発も強い。公明党は、食料品をはじめ生活必需品に低い消費税率をかける『軽減税率』の増税時導入を主張、財務省案に反対している。自民党内からも「バラまきになる」(伊吹文明元衆議院議長)と批判が相次ぐ中、麻生太郎財務相は「(財務省案には)こだわらない」と態度をトーンダウンさせた。

 ならばなぜ、いまこのタイミングで財務省は切り出したのか? 白石さんは「このまま通るとは財務省も思っていない。相当な“裏”があるはず」と言い、さらにこう続ける。

「マイナンバーを使った還付は“消費増税を前提にした議論になっている”と、国税局の元幹部が話していたそうです。財務省案が話題になればなるほど、消費税引き上げ反対の世論はパッタリと消えて、軽減をどうするかという話の方向へ向かう。財務省にとっては好都合です」(白石さん)

 一方、「時間稼ぎ」とみるのは森永さん。何のために? 来年夏の“政治ショー”を効果的に盛り上げる狙いがある。

「財務省案がダメになって軽減税率の検討を始めると議論は喧々諤々、来年7月の参議院議員選挙には間に合わない。そこで6月ぐらいに、安倍総理が消費税率の引き上げ延期・凍結を宣言するはずだと思っています。ただでさえ安保関連法案の影響で支持率が落ちているので、消費税の引き上げをやめて、それをまた選挙の争点に持っていく。財務省案は、そのための布石です」(森永さん)

 さらに、マイナンバーによる中小・零細企業への負担増も見逃せないという。

「零細企業の中には、社員を厚生年金に加入させていない事業所が80万社はあると言われています。これらがマイナンバーであぶり出され、未加入が見つかったときにどうなるか。おそらく社員を解雇して、自営業者として契約するという形を取るでしょう。景気が落ちてきたら真っ先にクビを切られる立場です」(森永さん)

 会社の規模にかかわらず、社員を厚生年金に加入させるのは法的なルール。だが零細企業の場合、それでは経営が立ち行かない。そのため結果として、不安定な働き方やクビ切りが横行すると指摘。

「日本全体が芸能界みたいになっていく。芸能界は上には年収10億円みたいな人がいるけれど、圧倒的多数は年収100万円にも届かず、明日の仕事があるかもわからない。とてつもない格差社会へと変わっていくのではないでしょうか」(森永さん)