友達とつながり、日記を書いたり、コミュニケーションをしたり、ゲームを楽しむ。そんなSNSや、LINEなどの通信アプリを使ったいじめが近年、問題になっている。

 ネットいじめの研究をしている山形大学の加納寛子准教授(教育工学)は、特徴的なパターンがいくつかあると指摘する。

コミュニケーション型いじめの巧妙さ

 誰もがイメージしやすいのは、通信アプリLINEなどのやりとりを利用したいじめだ。

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「当事者同士のやりとりを利用するのは『コミュニケーション型いじめ』です。LINEのグループに入れないで完全無視する、あるいはグループに入れても、いじめの対象になった子の書き込みには反応しない。1対1の場合はメッセージを読んでも反応をしない、既読スルーばかりになる」

 高校1年生の美月さん(16・仮名)は「基本的にはトラブルにならないようにしている」と話すが、何度か友人をグループからはずした経験があるという。きっかけは自分の彼氏と友人が2人で遊んだことを、LINEのタイムラインの写真で知ってしまったとき。

 学校現場では、こうした"グループはずし"がいじめに発展しないかどうかと過敏で、生徒指導上の問題になることもある。ただ、美月さんの場合はいじめに発展する前に、相手をグループに戻したことで、大きなトラブルにならなかった。

 一方、高校3年生の莉緒さん(17・仮名)は入学当初から無視されることが多く、LINEのグループには入れてもらえなかった。

「どうしてグループに入れてもらえないんだろう。いじめられているのか」

 そう感じるようになった。悩んだ結果、"この人たちと一緒にいるよりは、転校したほうがいい"と考え、2年生が終わると、別の高校に転校した。転校先ではいじめがない。

「嫌な思いをしてまで学校に通う必要はないと思いました。今はいじめられることもなく、楽しいです」

 コミュニケーション型では、《死ね》《うざい》と書かれるなど、文面でいじめや嫌がらせとわかるものがある一方、表面的に仲のよさを装った、わかりにくいいじめもある。

 中学生の詩音さんはある日の夜、同級生のA子から、《明日の試験、頑張ろう》とLINEのメッセージがきた。そのやりとりは1時間ほど続いた。

 A子とのやりとりが終わったころ、B子から《明日の試験、心配だね》とメッセージが届いた。やはり、1時間ほど続いた。

 そのやりとりが終わると、C子からも、《明日って試験だよね? 勉強してるの?》。示し合わせたように複数人が順番にメッセージをよこし、すべてのやりとりが終わったのは深夜。結果、詩音さんは勉強が十分にできず、かつ寝不足で、試験の成績はよくなかった─。

 これは詩音さんを寝かせず、テストの結果を悪くするため、複数の同級生が関わったいじめだ。しかし、やりとりの内容は誹謗中傷をしているわけではない。

「テストの前や部活のレギュラー選考の前に行われたりします。特定の人物に複数の人がLINEのメッセージを送って、寝かせないのです。内容だけ見ればいじめとは気がつきません」(加納准教授)

 そのため、やりとりの時間帯やその連続性から見抜かなければならない。「証拠が残るから、SNSで悪口は書かない」(高校3年・伶奈さん=仮名)という言葉にも象徴されるように、年々巧妙になっている。

永遠につきまとうアンケート型いじめ

 一見していじめとわからない形はほかにもある。『アンケート型いじめ』だ。加納准教授はこう話す。

「クラスでアンケートを取り、ランキングを発表するのです。アンケート自体はいじめではありませんが、内容によっては、いじめを助長します」

 インターネットのサービスにはアンケートを作成できる機能があり、誰でも作れる。その機能を使って"将来、犯罪をしそうな人ランキング"や"友達のいない人ランキング"といったものを作る。その結果をSNS上で公表する。

「アンケートの内容からすると、もともといじめがあったりすると、いじめられている子が上位に上がります。『ランキングいじめ』と呼ぶこともあります」

 ネットに公表するだけなら、そのサイトやSNSにアクセスする人だけの情報になるが、ランキングを卒業文集に載せることもある。そうなれば、学校を卒業しても、いじめられた当事者は苦しむことになる。ただ、アンケートであるため、いじめと確定することも難しい。

ターゲットを蝕むサイト型いじめ

 特定の人への誹謗中傷を目的にサイトを開設する『サイト型いじめ』というものもある。

「例えば『◯子さんのあるある』のようなサイトを作る。そこで誹謗中傷をする。この場合、そのサイトをいじめられっ子に見せないと意味がない。ある程度、情報が集まった後、本人に見せます」(加納准教授)

 "あるあるサイト"とは、特定の人物について、個人情報を載せたり、悪口を書いたり、テストの点数を載せたりする。情報がまとまった段階で、いじめの対象者に見せるという。

 千葉大学の藤川大祐教授(教育方法学)は、「ネット利用のトラブルは、佐世保小6同級生殺害事件のちょっと前くらいから問題になっていました」と話す。

 ’04年6月、長崎県佐世保市の小学6年の女児がカッターナイフで同級生の首や手首を切りつけ、死亡させた事件があった。この事件は"ネットいじめ"ではなかったが、子どもたちのネット利用におけるトラブルが原因だと疑う声もあった。

「子どもたちのネット利用では、いじめなのかはっきりしないものが多いですが、’07年には事件化するものが増えてきました」(藤川教授、以下同)

 ’07年9月、神戸市須磨区の私立高校の男子生徒が授業中に「トイレに行く」と言い、校舎から飛び降りて自殺した。その後、フットサル仲間たちが、死亡した男子生徒を誹謗中傷するサイトを開設していたことが発覚。名前、住所、電話番号まで晒されていた。強制的に歌を歌わされている動画や、裸になった写真を公開されていた。《あいつは嘘つき》という書き込みもあった。仲間内のいじめだったために、周囲からはじゃれあいにも見えた。

「神戸の事件は典型的ないじめでした。ただ、仲間内のいじめの場合、グループ内で関係が変わることもあり、実態がわかりにくい。ターゲットが変わることもあるし、いじりも見方によってはいじめになります」

 ネットいじめは発覚しにくくなっている。

「LINEが流行ってからはますます見えにくくなりました」

 裏サイトでのいじめが主流だった時代では、ネットパトロールが有効な手段だった。専門のコンサルタント業者などもでき、行政は業者に委託して、ネットを監視してきた。同様に、プロフィールサイト(プロフ)もチェックしていた。

 しかし、裏サイトが発見されると、開設していた児童生徒たちはパスワード制にしたり、会員制のSNSにその場を移していった。さらに通信アプリや、個人アカウントが簡単に作れるSNSアプリができると、大人の目はますます行き届かない状態に陥った。

 ただ、SNSやLINEでの誹謗中傷は証拠に残ることがわかっている。第三者の児童生徒が、誹謗中傷された当人に画面ごと見せて、余計にトラブルを助長させることもある。

「友達の悪口を、別の友達にLINEメッセージで送ったのですが、その画面を本人に見せられて、仲が悪くなったことがあった」(麻衣さん・17・仮名)

 また、パソコンやスマホの画面を画像として保存する、スクリーンショットが出回ることもある。そのため、高校生の多くは、意識して相手が不快になる言葉をSNSやLINEでは書かないようにしている。

 ただ、いじめの疑いがある場合、意識せずに文字にしていることも多い。保護者が子どもからいじめを相談された場合、スクリーンショットが有効な手段だ。

「(やりとりの)記録を取り、子どもの証言と合わせ、時系列で整理します。いじめの証拠になる資料一式を持って、学校に相談したほうがいいでしょう」

 中高生に話を聞くと、LINEのグループの数が多いことに驚かされる。聞いた中では80以上という女子高生もいた。グループが多ければ、トラブルの要素も多くなる。子どもたちは今、いじめやトラブルと隣り合わせの日常を生きている。そんな実情を、親も知っておく必要があるだろう。

 


取材・文/ジャーナリスト・渋井哲也(しぶい・てつや) ●自殺や自傷行為、依存症をはじめ、少年犯罪、いじめ、教育問題、ネットコミュニケーション、ネット犯罪を中心に取材を行う。東日本大震災に伴う原発問題・避難生活の取材も重ねている