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 被災地のタブーにまじめに挑んだ東北学院大・工藤優花さんの卒論が大反響。宮城・石巻のタクシー運転手に聞いてみると……。

 タクシーの運転手が後部座席を振り返ると、乗せたはずのお客さんが消えていた。よくある怪談話のパターンだが、被災地のそれは結末がだいぶ違う。

《震災から3か月くらいかな? 記録を見ればはっきりするけど、初夏だったよ。深夜に石巻駅で待機していたら真冬のふっかふかのコートを着た女の人が乗ってきてね…》

 東北学院大学4年の工藤優花さん(22)が卒業論文のテーマに選んだのは、『被災地のタクシードライバーの幽霊現象』だった。冒頭の証言は、工藤さんが約1年かけて運転手から聞き取った体験談のひとつ。タクシーに乗り込んだ30代くらいの女の人は、運転手に「南浜まで」と告げた。

「あそこはもうほとんど更地ですけど、かまいませんか? どうして南浜まで? コートは暑くないですか」

 そう尋ねる運転手に対し、震える声でこう返したという。

「私は死んだのですか」

 驚いた運転手が「え?」とミラー越しに後部座席を見ると、女の人は消えていた……。

 別の運転手は、真夏の深夜にコートやマフラーをした小学生くらいの女の子を乗せた。自宅に着くと「おじちゃんありがとう」と言ってスーッと消えた。降りるとき、確かに手に触れたという。

 なぜか若い乗客ばかり。ほかにも幽霊とは思わず実車のメーターを回し、自腹を切った運転手もいる。

 宮城県石巻市によると、太平洋沿岸部に広がる同市では、東日本大震災による直接死・間接死と行方不明者を合わせると3975人を数える。

 工藤さんはその中心部のJR石巻駅に毎週通い、客待ちするタクシー運転手100人以上に幽霊の話を聞いて回った。被害の大きかった地域であり、当然、震災で身内を亡くした運転手もいる。

 工藤さんに霊感はない。被災地・宮城県にある東北学院大学の金菱清教授(地域構想学科)のゼミで学び、被災地の死生観についてまじめに突きつめたかった。

 しかし、現実には女子大生が「幽霊を……」と話しかけてもなかなか相手にされず、「面白おかしくネタにするな」などと怒鳴られた。目の前で泣かれたこともあった。それでも7人が不思議な体験を話してくれた。

「彼女は調査中、4、5回は“やめる”と言いました。就職活動をしなくちゃいけないとか言って。そのたびに“絶対にいい研究になるから”って励ましました」(金菱教授)

 ゼミ仲間も『慰霊碑』『震災遺構』『墓』『葬儀業者』『消防団の死生観』『原発避難区域の猟友会』と腰が引けそうな難しいテーマに挑んでいる。

 金菱教授が編者としてまとめたゼミ生の論考集『呼び覚まされる霊性の震災学』(新曜社)が1月下旬に刊行されると国内外で話題になり、2月下旬に同大学で緊急シンポジウムが開催された。緊急シンポで工藤さんは、こう明かした。

「幽霊を乗せたタクシー運転手は、霊に畏敬を感じている」