いまさら『危ない!』とは言いにくい

 福島県沖地震は複数の課題を突きつけた。まず津波警報の遅れがあった。気象庁が地震発生後すぐ津波警報を出したのは福島県だけで、宮城県では1・4メートルの津波を確認したあとで注意報を警報に切り替えた。これでは意味がない。

 気象庁は「原因を調査して改善につなげたい」と話す。

「スピードが大事なので、地震の震源位置、規模、深さを考慮し、シミュレーションした約10万通りの津波予報データベースから適合するパターンを選び、津波の高さや到達時間をすみやかに発表している。宮城で想定した波の高さを超えたのは、海底の複雑な地形が影響したことなどが考えられる」(同庁・地震津波監視課)

 3・11後、津波予測のアイテムは増強された。国交省が沖合20キロに浮かべるGPS(全地球測位システム)波浪計が全国18か所にあり、防災科学技術研究所が沖合200キロを含む海底125か所に配備した水圧計で構築する『日本海溝海底地震津波観測網(S-net)』が7月末から稼働している。

 もうひとつの課題は避難する車で渋滞が発生したこと。寒冷期に高齢者や子どもを連れた徒歩避難にはリスクも伴う。高台にある宮城・石巻市立石巻中には車が押し寄せ、学校前の道を塞いだという。

「津波注意報が警報に切り替わったタイミングで110〜120台の車が集まりました。ポケモンGOのイベント中だったので他県ナンバーもあった。校庭を開放し、体育館に暖房を入れて受け入れ態勢を整えました」(板橋裕二教頭)

 学校側の迅速な判断で混乱を防いだ好例だろう。

 それにしても、なぜ、東日本大震災の余震について、政府は積極的に注意を呼びかけてこなかったのか。

「安倍首相は五輪招致のスピーチで福島について『アンダー・コントロール(制御下にある)』と言いました。いまさら『危ない!』とは言いにくいでしょう」と高橋教授。

 国民の生命・財産を守るのは政府の責務だ。それは五輪開催よりもずっと重い。

<プロフィール>
たかはし・まなぶ 立命館大学教授。1954年愛知県生まれ。環境考古学(環境史、土地開発史、災害史)が専門。著書『平野の環境考古学』(古今書院)など