医療機器メーカーのマーケティング部で働く佑美さん(仮名)は、「仕事帰りにカフェに立ち寄って仕事をするのが、日課のようになっている」と言います。佑美さんの会社では、最近特に残業が厳しく制限されるようになり、20時を過ぎると早く退社するように促されます。

 しかし、それまでに仕事が終わらないことが珍しくありません。上司から表立って「持ち帰ってやれ」と言われることはないものの、暗黙の了解として持ち帰るのが“当たり前”な雰囲気があると言います。

 そこで、社員1人1人に支給されているノートパソコンを使って、カフェで作業するようになったのです。「自宅で作業をするよりは、にぎやかな場所で仕事をする方が、気が紛れる」と佑美さんは言います。よく通っているカフェでは、自分以外にも明らかに仕事をしている人がいるそうです。

コッソリ資料をメール添付し、何とか納期に間に合う

 人材コンサルティング会社の管理部で働く幸恵さん(仮名)の場合、“禁じ手”を使ってまで持ち帰り残業をしています。幸恵さんの会社では、外部から社内ネットワークにログインすることができず、またUSB等へデータをコピーすることも禁じられています。

 そこで幸恵さんは、締め切りに遅れそうな仕事がある場合は、途中まで作成した資料を帰りがけに自分宛のプライベートなメールアドレスに添付して送り、自宅でその続きをやることがあると言います。それをまた翌日、会社の自分宛のアドレスに送信して、何とか締め切りに間に合わせているそうです。

 佑美さんも幸恵さんも、持ち帰って仕事をした分を労働時間として申告しておらず、「そうしないと仕事が回らないから仕方がない」と、半ば諦めた様子。しかし、これを当たり前だと考えてはいけません。

 2011年6月、大手英会話学校の講師だった女性が、長時間の持ち帰り残業が原因になって過労自殺するという痛ましい事件がありました。2016年12月20日に大阪地裁で調停が成立し、調停事項には「持ち帰り残業の有無や実態を含め労働時間の管理を適切に行う」と再発防止に努めることが盛り込まれました。

「長時間労働」というと、職場でどれだけ長く働いているかという、在社時間に目が行きがちです。職場であれば、使用者の指揮命令下にあることが明らかなため、労働時間と認められやすいでしょう。

 しかし、自分の判断で仕事を持ち帰り、自宅で残業をしているような場合、時間的・場所的な拘束を受けておらず、使用者の指揮監督が及んでいないため、原則として、労働時間にはなりません。それが、持ち帰り残業の“死角”となり得るのです。