汚染度が低下しても、基準を緩和してはならない

 風評被害の対策は重要だが、焦点が被災地にあると見えながら、実は補償を支払う国や企業だとしたら? 国策の被害に公費を投じることは当然としても、焦点をずらして責任を問わないままでは事故の再発を防げない。放射能被害と風評被害を混同し、放射能汚染の被害者を生産者と消費者で対立させ、問題を見えにくくする「風評」被害の呪縛は解く必要がある。

 原発災害が毀損したのは、人々の生業に支えられてきた地域の豊かさだという小山教授の指摘もある。補償や賠償の枠組みを、より実態に合わせて再編することも一案ではないか。

 半減期30年のセシウム137は毒性が8分の1になるのが90年後。「人の一生にはおさまらない」(矢ヶ崎教授)放射能汚染と向き合うにはどうすればいいか。

放射能の話題を避けることをやめ、食材を選び、内部被ばくを避ける。基準設定で重要な点は、事故前の食品の汚染状態である0・1ベクレル以下にすることだ」と矢ヶ崎教授。小豆川助教は、「少なくとも現在の検査体制を維持すること。検出されるセシウムが見かけ上で少なくなったからと緩和してはいけない」と話す。農産物はもとより「汚染度が低い傾向の海産物でも高い汚染度のはずれ値がごくまれにある」からだ。厚生労働省は基準値を「見直す予定はない」というが、改悪されないか注視したい。

台湾では台北駅前を5万人が15時間占拠、脱原発へつながった(写真提供:緑色公民行動連盟)

 被災5県の食品の輸入を規制する台湾は、ひとまず解禁を棚上げした。今年1月、すべての原発の運転を’25年までに止めると謳う改正電気事業法が成立。20年来の願いの実現に向けた大きな一歩にも前出・崔さんは「楽観も悲観もしていない。今後も問題を見極めて頑張る」と淡々と語る。台湾は、4年連続で過去最高の輸出額を更新する日本の農林水産物や食品の、第3位の輸出先でもある。

 平坦な道はないが、歩むことでのみ、明日へ通じる。

〈取材・文/山秋真〉
ノンフィクションライター。神奈川県出身。石川県珠洲市、山口県上関町と原発立地問題に揺れる町と人々の姿を取材。著書に『原発をつくらせない人びと─祝島から未来へ』(岩波新書)など