LGBTマーケティングの要諦とは?

 これがLGBT層の当人を消費ターゲットにする、そして記事等でよく散見するLGBTマーケティングの実態なのではなかろうか。

 ただしLGBT層に嫌われた場合は、この6兆円消費へのアクセスを一気に失う危険性には十分に留意されたい。しかも、LGBT層を支援する、「ストレートアライ」と呼ばれるさらに大勢の人々からも嫌われるために、その喪失規模は数十兆円にも達しよう。

四元さんも執筆している『ダイバーシティとマーケティング-LGBTの事例から理解する新しい企業戦略』(著者/四元正弘・千羽ひとみ)。画像をクリックするとamazonの購入ページにジャンプします
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 というのも、電通調査によれば「性的マイノリティを支援する企業の商品を積極的に利用したい」と答えた一般人の割合は53%。

 さらに個人消費総額が約285兆円(平成28年度消費者白書)であることを考えれば、LGBT本人および支援者による支出総額は150兆円という算段も成り立つからだ。

 ノーベル文学賞を受賞した英国の哲学者バートランドラッセルはかつて、「最悪な人間とは、あらゆる人間を分類して、判りやすいラベルを貼る奴のことだ」と述べた。

 実際に、「○○とはこういう人だ」「○○を狙え」的なマーケティングが上手くいった事例はほとんどない。ラッセルが言うように、当の本人たちにしてみれば、ラベルを安易に貼られて不愉快になるからだ。

 その意味でLGBTマーケティングの要諦とは突き詰めれば、「LGBT層を狙え」ではなくて「LGBTから嫌われない」、つまりは「顧客にLGBTもいるかもしれないので、そういった人たちに自然な配慮しておく」ことに尽きると私は考える。

 そこで次回の記事では、LGBT層を有望消費者としてラベル付けするのではく、社会運動テーマとして捉えて、そこに企業が飛び込んでいくことで企業ブランディングに役立てるマーケティング戦略を考えてみたい。


四元正弘(よつもと・まさひろ)◎四元マーケティングデザイン研究室代表 (元・電通総研・研究主席)。東京大学工学部を卒業してサントリーでプラント設計に従事したのちに、87年に電通総研に転職。その後、電通に転籍。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。2013年に電通を退職し、四元マーケティングデザイン研究室を設立。21あおもり産業総合支援センターコーディネーターも兼職する。