そして呼応するかのように、「性的指向、性同一性を理由とする差別やハラスメントを一切行わない」と明記した倫理規定を策定した野村証券グループをはじめとして、LGBT層の従業員に対する支援策を有する企業も確実に増えている。この種の問題に総じて鈍感だった日本企業も、対応しないリスクにようやく気付きはじめたようだ。

四元さんも執筆している『ダイバーシティとマーケティング-LGBTの事例から理解する新しい企業戦略』(著者/四元正弘・千羽ひとみ)。画像をクリックするとamazonの購入ページにジャンプします
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 しかしその一方で、今なお、就活や職場で差別を感じているLGBT層や性的マイノリティが大勢存在している現実からも目を反らしてはいけない。

 虹色ダイバーシティと国際基督教大学が実施した調査によると、同性愛者やバイセクシュアルの約4割が、またトランスジェンダーの約7割が求職時にセクシャリティに由来した困難を実際に感じた、ということだ。

 ちなみにLGBT先進国の米国では、ヒューマン・ライツ・キャンペーン財団(HRC)という有力な人権団体が、LGBT層や性的マイノリティが働きやすい雇用環境を数値化して示す「企業平等指数」(Corporate Equality Index、略してCEI)を策定しており、これに基づいて毎年発表される企業ランキングではアップル、Twitterなどの有名IT企業が上位に名を連ねている。

 これをもって安直に断定する気はないが、彼らが働きやすい雇用環境とイノベーションとの間にある程度の相関性が存在することを傍証しているように思われる。

 社員の均一化・同質化は単純作業の効率アップには有効かもしれないが、イノベーション創出のためにはむしろ逆風になりかねない。「珍結合」を、そしてイノベーションを生むための多様な人材として、LBGT層や性的マイノリティが果たせる役割は決して小さくはないように思われる。

 彼らに真摯に向き合ってこそのダイバーシティ経営であり、イノベーショナルな企業への王道なのではないだろうか。


四元正弘(よつもと・まさひろ)◎四元マーケティングデザイン研究室代表 (元・電通総研・研究主席)。東京大学工学部を卒業してサントリーでプラント設計に従事したのちに、87年に電通総研に転職。その後、電通に転籍。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。2013年に電通を退職し、四元マーケティングデザイン研究室を設立。21あおもり産業総合支援センターコーディネーターも兼職する。