健康な毛細血管を育てる暮らし方のコツ

 いよいよ、ここからは実践編。加齢に伴う毛細血管の劣化を最小限に食い止め健康な毛細血管を増やす生活習慣のポイントをご紹介。

【睡眠/質のいい眠りこそ血管ケアの最重要課題】

 睡眠ホルモンのメラトニンを増やすには、早起きして朝日を浴びるのが有効。曇り空や雨の日でも少しの間、窓辺にいればOK。毎朝、決まった時刻に朝日を浴びる習慣をつけると、身体のリズムが整い、毛細血管の劣化予防につながる。

 強い光の照明や、スマホのブルーライトはメラトニンを抑制し、不眠の原因に。まず寝室は真っ暗にして眠り、夜中に目覚めたときも明かりをつけたりスマホで時間を確認しない。トイレへの動線にフットライトを設置するなど、環境にも工夫を。

 睡眠不足が身体に深刻なダメージを与えるのは言わずもがな。とはいえ、長く寝るほどいいわけではなく、科学的な根拠に基づいた理想の睡眠時間は7時間が目安。さらに、成長ホルモンとメラトニンの働きを存分に享受したいなら、午前0時までに寝て朝7時に起きること。可能なら夜11時に寝て朝6時に起きるのがもっとも理想的。

【運動/無理のない範囲で習慣にするのが効果的】

 毛細血管を増やすのに、もっとも有効なのが筋トレ+有酸素運動の組み合わせ。筋肉細胞が酸素を大量に欲することで血流が増え、新しい毛細血管が生み出される効果が期待できる。運動はどちらもそれほど激しい負荷は必要なく、例えば5分スクワットやかかと上げ(ふくらはぎのエクササイズ)をしてから15分、ウォーキングする程度でOK。

 運動が苦手な人は、スポーツジムと聞くと気後れしてしまいそうだけれど、実は苦手な人ほどジムに向いている。トレーナーがひとりひとりに合う内容で正しい運動の仕方を指導してくれるうえ、ジム仲間ができれば楽しく続けられるはず。

 毛細血管を増やす効果がいちばん高いのは有酸素運動。ただしマラソンのような激しい運動は身体を酸化させるフリーラジカルを生み出してしまい、かえって老け込むことに。おすすめはウォーキング。1日4000~5000歩を目指して。

【食事/体内リズムの調整を第一に血管ケア食材も要チェック】

 食事は内容にこだわるよりもまず、3食規則正しくとり、体内時計を整えることが大切。特に朝食は1日の体内リズムを調整するのに重要で、朝日を浴びて1時間以内にとると地球に合ったリズムで動きだせる。また夕食は、睡眠時のアンチエイジング・ホルモンの分泌を妨げないよう、20時ごろまでにはすませて。

 フリーラジカルによる酸化対策に有効なのが、抗酸化食材。トマトのリコピン、ニンジンのβ-カロテン、サーモンのアスタキサンチンなど、抗酸化成分を豊富に含むカラフルな食材を食事に取り入れて。また、シナモンやヒハツというこしょうは、毛細血管の内皮細胞や壁細胞の接着を強化して健康を保つ働きが。こちらもぜひ活用したい。

 食で若さを保つ方法として、ここ数年、世界的に注目を集めているのが「カロリーリストリクション」、略してカロリス。必要な栄養素を網羅したうえで、毎日の摂取カロリーを標準の7~8割に摂取する方法。動物実験では、カロリスで長寿遺伝子がオンになることがわかっており、血管の細胞が長生きして老化が遅くなり寿命が延びると考えられている。

【入浴/末端の毛細血管まで開かせるもっとも有効な手段】

 入浴は、湯船にゆっくり浸かって血液循環を促し、副交感神経をアップ。ただし、身体の温めすぎは逆効果になるので要注意。人間は夜になると深部体温が下がって眠くなるため、熱すぎるお風呂や、寝る直前の入浴は深部体温が下がらず睡眠の質が落ちてしまう。お湯の温度は38~41度ぐらいにし、就寝の1時間前までには出ること。

 疲れがたまっているときには、42度ぐらいの少し熱めのお風呂に10分間浸かる入浴法がおすすめ。傷んだ細胞を修復するタンパク質「ヒートショックプロテイン」は、お風呂の熱で細胞に適度なストレスを加えることで増産される。

【ストレス対策/副交感神経が下がりやすい40代以降は特にケアが必要】

 ストレスが続くと、交感神経が優位な状態が続き、血流が悪化。身体のあちこちでフリーラジカルが作り出されてしまうため、ストレスをため込まないようコントロールすることが大切。少し大雑把になってみる、ガムをかんでハッピーホルモンのセロトニンを出すなどの方法で受け流しを。お笑い番組を見るのも◎。

 過度なストレスはよくないものの、全くないのも副交感神経が優位になりすぎて不調を招く。ほどよいストレスを保つには「90分集中し、5分休む」サイクルで活動するのが効果的。また、行き詰まったら香りに鎮静作用があるコーヒーでひと息。

<教えてくれたひと>
根来秀行先生
医師、医学博士。ハーバード大学医学部客員教授、パリ大学医学部客員教授、事業構想大学院大学理事・教授。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたる。『「毛細血管」は増やすが勝ち!』(集英社)など著書多数。