元ソーシャルワーカーでDV問題に詳しい愛知県立大学の須藤八千代名誉教授は、公的シェルターの現状にはさまざまな声があると続ける。

「一時保護所に対する不満も多数あることは否定しませんし、そういった声を私も聞いています。公的な支援であるため、入所者の要求を完全に満たすことは難しく職員の対応力が問われます」

 人類学が専門で、支援現場の調査経験もある名城大学の桑島薫准教授は、

「シェルターで監視や管理が必要なのは被害者の安全を最優先に確保するためです。草の根をかき分けて探す夫もいれば、夫と同じ型の車を見ただけで震えが止まらなくなる女性もいます。これは民間のシェルターでも同様です。しかし職員の中には“牢獄のような管理をしていいのか”と葛藤されている方もいます」

 と現場の苦しみを代弁する。

「お母さん」と呼んでくれません

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 そんな生活が嫌になった吉田さんは、1度は夫のもとへ戻ったが、DVが娘にまで及び、離婚をし再びシェルターへ。

「お母さんは病気ですから、まずは治療をしましょう。娘さんは児童相談所で保護しますから。と何度も言われました。娘と一緒にいられないのなら、シェルターへ入った意味がない。そう思いずっと拒否していました」(吉田さん)

 その後、彼女の意向は一切聞き入れられず、当時4歳の娘は児童相談所に保護され、母子は引き離された。

「“ママのこと忘れないから”と連れて行かれる娘の顔が頭を離れません」(吉田さん)

 あれから7年。職を得て生活を立て直したが、今年で12歳になる娘とはいまだ引き離されたまま。現在は2か月に1回の面会時に会えるだけ。

「小さいときに引き離されたためか、私が母親だという実感を持てないでいるようです。いまだにお母さんとは呼んでくれません。助けを求めたはずなのに私の希望は一切、通らなかった。ただ娘との安心で安全な生活が欲しかっただけなのに……」(吉田さん)