相続しないと納骨もできない

 こうした家制度の「遺風」は戦後、新憲法下で行われた個人の尊厳と男女の本質的平等に基づく民法改正で、一掃されたものではなかったのか。

 実は、そうではなかったのだ。

 先日、私の義父が亡くなった。子も親戚も遠くに散らばっているので、なるべく法要と納骨などは同じ日にやりたいと言うことになり、墓地の管理組合に連絡すると、墓石に戒名などを掘るためにも、まずは墓を相続しろ、とのことだった。ほどなく、相続のための書類が送られてきたのだが、そこには家系図とともに、「妻」「長男」「次男」等を記入する欄もあった。

 義父が名義人である墓に本人はそのままでは入れない。必ず「相続」しなければならない。つまりは必ず「墓守」を決めないといけないのだ。

 それは昭和も越え、平成も終わろうとしている現在、まさかお目にかかるとはに思ってもみなかった手続きの数々だった。

 その源泉は「祭祀条項」にある。

戦後民法改正時の「祭祀条項」を巡る争い

 戦後、「家」制度が廃止され「法律上の家」はなくなり、当然、長男単独相続を原則とする家督相続の特権とされたこの「祭祀条項」(旧987条)も消える運命にあった。

 ところが、だ。なぜか祭祀条項は民法相続編に897条として残ることとなった。897条は祭祀継承者について、

(1)被相続人の指定、(2)指定のないときにはその地方の慣習、(3)指定もなく慣習も明らかでなければ家庭裁判所の調停・裁判によって決定する

 と規定したのだった。

 加えて明治民法にもなかった条文ーー婚姻の解消・取り消し、離縁、縁組みの取り消しの時の祭祀事項が親族編(769条、771条、751条2項、749条、808条2項)に新たに規定された。系譜、祭具及び墳墓の祭祀財産は、一般の財産相続の原則とは別に、特定の者が「祖先の祭祀を主催すべき者」として承継することとなった。

「その地方の慣習」などという微妙な線引きを法律事項に書いて、実質は「長子相続」を残したというわけだ。

 現行民法は1946年7月から改正の具体的作業に入り、第七次案まで議論をされて、翌年の国会審議を経て現行民法となったのだが、「祭祀条項」が残ったのには理由がある。