普通の家族に憧れて

 大輔とは、学生時代の友達の紹介で知り合った。

 大輔の仕事は、運送会社の社長。大輔が、小さいながらも従業員を雇って会社を経営していると知り、麻里子さんはすぐに尊敬の念を抱いた。第一印象は、頼りがいのある、ダンディーな男というイメージ。それもそのはず、大輔は身長が高く、体重は100キロ以上のガッチリ体形。高校時代は運動部に所属していたという、根っからのスポーツマンタイプだった。

「最初の半年間はすごくいい人だったんです。“俺が父親として葵のことも面倒を見てあげるし、全部家庭のことも責任を持ってやる、安心しろ”って言ってくれた。仕事も従業員を雇って、ちゃんと働いているから真面目だと思ったし、娘とも遊んでくれる、本当に優しくて良い人だと思ってました」

 一緒にランチを食べたり、買い物に行ったりして、2人はデートを重ねた。その後、トントン拍子で付き合うことになって、再婚の話まで飛び出した。大輔と知り合って、約半年後、単身のアパート住まいだった大輔が、麻里子さん親子のアパートに転がり込む形で3人での生活が始まった。

 麻里子さんには、ずっとかなえたかった夢があった。

 家族3人で食卓を囲んで、ご飯を食べるというささやかな夢だ。「いただきまーす」「ごちそうさま」父親を囲んで、元気な家族の言葉が食卓に響く。

 大輔と一緒に住むようになって、そんな「普通」の家族をようやく手に入れたと思った。葵も、すぐに大輔になついて、「お父さんだよ」と言うと、いつしか、パパと呼ぶようになっていった。世間では「当たり前」の幸せな家庭。しかし、皆が持っているのに、自分にはなかった、喉から手が出るほど欲しかった家庭――。ようやく、それを手に入れた、と思った。

異様に嫉妬深く、過去に執着するDV男

 しかし、そんな生活はわずかしか続かなかった。大輔のDVの片鱗(へんりん)が見え始めたのは、そんな3人の生活が半年ほど経ってからだった。ある日、麻里子さんは、急に熱を出してしまい、部屋で寝込んでいた。ゴホゴホと苦しそうに咳をしながら、

「今日は、風邪でしんどくて、ご飯が作れないよ」

 仕事から帰ってきた大輔に何気なくそう言うと、そんな麻里子さんの態度にいきなり、猛烈に腹を立て始めた。そして、異様な剣幕で過去の男性関係について「隠し立てしているだろう」と、まくし立てた。

 麻里子さんは、一度、大輔の友人である男性にしつこく言い寄られて、抱きつかれた過去がある。それを正直に話すと、いきなり机の上のライターが麻里子さんめがけて飛んできた。ライターは床に跳ね返って、粉々に砕け散った。突然のことで、何が何だかわからなかった。