なのはなファミリーでは、全部で約5町歩ほどの広大な田畑を地元の農家から借り受け、岡山県名産の桃や梅をはじめ約100種類もの野菜や米を作り、ほとんど自給自足で生活している。

小柄ながらトラクターを運転するのが好きな奈央さん
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「なのはなのお母さんが、よくみんなに言うんです。“いざとなったら自給自足できる人がいちばん強いんだよ”って。どんなに世の中で失敗しても、行くところがなくなっても、誰かに嫌われても、小さい畑があって自給自足できれば生きていけるんだって」

 それは、「親の期待にこたえなければ」と必死にもがき続けても、学歴や能力による競争社会に溶け込めず、ついには心をこわしてしまった奈央さんにとって、新しい価値観だった。

 ここでは全員が農作業の一員となる。都会育ちで虫を怖がっていた女の子も、やがて素手で害虫をつぶし、大きなトラクターを操り、日焼けした顔で率先して畑作業を楽しむようになるという。

「私がいちばん鍛えられたのは建築・土木作業」と話すように、何でも自分たちの手でやる。下水道の工事を任されたこともあるし、小学校の改装工事はみんなで話し合い、助け合いながら完成させた。

新しい社会を作っていく強さを

ハンドドリルで肥料を入れるための倉庫を作る。木を切り出すところから自分たちで

「摂食障害から回復して自立を目指すとき、“元の社会に復帰する”ということが目標ではないんです。心に傷を負った人は優しくしか生きられません。

 だから競争社会を生き抜く強さを身につけるのではなく、競争社会に流されずに新しいモラル、価値観を作り、新しい社会を作っていく強さを身につけるんです

 '04年に、なのはなファミリーを設立した「お父さん」と呼ばれる小野瀬健人さんと、「お母さん」の有元ゆかりさんをリーダーにして、同じように傷ついてこの施設にたどりついたみんなが、「その仲間なのだ」と奈央さんは言う。

 入居から1年半後、驚くことに奈央さんは『津山加茂郷フルマラソン全国大会』に出場している。まだ体力がなかった最初の年はミニマラソン、翌年からはフルマラソンに挑戦した。

 全国からマラソンファンが集まるこの大会に、なのはなファミリーの仲間は毎年40人ほど参加し、ほとんどが完走するという。