「お父さんが作ったメニューで練習していくと、体力が徐々について走れるようになるんです。私も完走する前は、まさか自分が42・195キロメートルを走り切れるとは思ってもいませんでした」

 小野瀬さんが説明する。

摂食障害というのは気持ちと身体のバランスが悪い状態なんです。それを一定のバランスに整えることで走れるようになるんですよ。最初はゆっくりすぎるくらいのペースで自分のリズムを作る。それができれば、あとはいつまでも走れるようになる。人生と一緒です。

マラソンを完走してゴールで待っていた小野瀬さんに迎えられる
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 その中でも起承転結があり、ドラマがあり、何か事件があっても焦らずに乗り切る。中盤は景色や応援を楽しんで、最後のほうできつくなったら、いろんな人を見ながら自分を保つんです」

 奈央さん自身、初めてフルマラソンを完走したとき、「これからの人生を生きていける強い身体になれたんだ」と自分の身体が愛おしくなった。大きなものをひとつ乗り越えた達成感があったという。

 さらに、彼女の心を大きく前進させたのは演劇だった。

演じているときだけは楽しいと思えた

 なのはなファミリーでは「表現すること」を回復の大切なステップと考えている。毎年恒例で開催している、『Winter Concert』は、実に3時間ものステージに全員が出演する。

 脚本を小野瀬さんが、舞台美術を有元さんが手がけ、ふたりが演出する舞台は、演劇に加えて歌とダンス、ギターやサックスのアンサンブル、ビッグバンドの演奏など、かなり本格的で華やかなステージだ。700人収容の勝央文化ホールがいっぱいになるほど、地元でもファンが多い。

 年に1度、入居者の親も招待され、ステージに立つ子どもの信じられない回復ぶりと成長した姿に涙するという。

 ダンスは経験者が、音楽はそれぞれに得意な者がリーダーとなって、みんなを引っ張っていく。そこで奈央さんは驚くべき本領を発揮する。