ある日、食事配達業者の男性が訪問した際に、全く身動きがとれなくなっている佐藤さんを発見した。佐藤さんは崩れ落ちたゴミの中に埋もれ、圧迫骨折を起こして、その場から動けなくなってもがいていたのだ。苦し気にうめきながら、必死の表情で、業者の男性に水を求めた。そのまま放置されていたら孤独死してもおかしくはなかった。佐藤さんは「水道の水でいいから、ペットボトルに入れて今すぐちょうだい!!」と絶叫した。

「それでガブガブ呑んで、何とか生還したんです。かなりの体重がある方なので、ドスンと座って、そのままごみに埋もれて、骨折してしまったんでしょう。身動きが取れなかったらしく、皮膚がただれていて、褥瘡(じょくそう=床ずれのこと)もできていましたね。すぐに病院に搬送されたのですが、その骨折が治ると、また病院から自宅に戻されてしまい、結局、今もゴミ屋敷で生活しています」

 2016年10月にはゴミ屋敷の火災が大々的に報道された。

 福島県郡山市で、地元でも知られていたゴミ屋敷が全焼し、住民とみられる男性が死亡しているのが発見されたのだ。ゴミ屋敷は、ただでさえ燃えやすいものが堆積しており、もし周囲にでも引火したら、大惨事になりかねないだろう。

 また、これからの季節で心配されるのが、熱中症死だ。高齢者は、体温の調整機能が鈍くなるため、室内でも夏場は熱中症にかかりやすい。

 そのため、いつ、佐藤さんが家の中で孤独死しているか、山下さんは気が気ではないのだという。

最後は本人の自覚にかかっている

 しかし、一番のネックは本人が、そんな生活に問題があるとは思っていないことが多いことだ。

佐藤さんもそうなのですが、ゴミ屋敷に住んでいる方は、まずゴミをゴミとは思っていないことが多いんです。彼らにとっては、ゴミではなくて、全てが宝物なんです。身体面においては、“私なんて、いつ死んでもいいのよ”と言いながら、自分の身体を痛めつけるような高カロリーの好きな物を、好きなだけ食べるんです。ある意味、ご本人にとっては、それが幸せなのかなと思うときさえあります。

 でも、それでは医療者としては良くないから、糖尿病の注射をしたり、自分でもコントロールできるように、何度も訓練をしてもらうんです。でも、結局それは一時的なもの。最後は本人の自覚というか、認識にかかっているので、そこがセルフネグレクトという問題の根深いところだと思います。それには、私たちのような医療者も含めて、誰かが常時介入していくことが大切ですね」