朝5時に起床して食事後はゴミ拾い

 スカイツリーに背を向け、五輪開催時に観戦客や買い物客でごった返しそうなスポットへ。JR東京駅丸の内口から少し歩くと、環境省皇居外苑が広がる。

「5年前はここに30人ほどホームレスがいましたが、いまは10数人ぐらい。ただ、テントは禁止だし、夜は公園には入れないので、日中、芝生やベンチで休むことしかできませんけどね」

 と公園関係者が事情を説明する。

 この公園の木陰で芝生の上に横たわっていたのが、山上浩さん(69・仮名)だった。

「長野県生まれで、中卒で主にガテン系の仕事をしていたんだけれど、15年前からプータローですよ。他人ならまだしも兄、姉、弟からこき使われ、金もふんだくられ、裏切られた結果、何もかも嫌になってしまった。人を信じられなくなったことが原因です

 と山上さんは振り返る。縁がなかったため、ずっと独身という。

観光客の目立つ皇居外苑で、山上さん(仮名)は芝生に寝そべったり、運動不足解消をかねてゴミ拾いをする
観光客の目立つ皇居外苑で、山上さん(仮名)は芝生に寝そべったり、運動不足解消をかねてゴミ拾いをする
【写真】取材を受けるホームレスの人々

「寝泊まりは近くの都立日比谷公園の屋根があるところ。朝5時に起きて、水道で顔を洗い、髭と髪を剃って、食事。それからこの皇居外苑へやってきて1~2時間はゴミ拾い。40代でエコノミー症候群になったから運動のためにね」

 途中で食事を挟み、芝生で横になって夕方までいる。

「睡眠不足だし、金がないからやることもないのでね。何がつらいって、やっぱり夏の暑さですよ。寒いのは着ればいいけど、暑いのはこれ以上脱げないから

 と山上さんは素肌を指さして笑う。涼める図書館などへは行かない。じっとしていると眠くなり、眠ると職員から注意されるから。

「夕方は再び日比谷公園へ移動して、夜10時まで食事などをしながらやり過ごす。そこから“餌取り”を深夜1時まで約3時間。翌日分の食料集めをね。独自の情報だから教えられないけれど、顔見知りの弁当屋さんを訪ねたり、店の残飯をもらったり」

 その結果、睡眠時間はわずか4時間となってしまう。日比谷公園や築地などで炊き出しがある日の前日は、少しだけ楽だという。

ただリーマン・ショック、東日本大震災を経て、どんどん残飯は出なくなってきましたね。飲食店は残飯が出ないように、どんどん切り詰めていることは確かですよ。皇居外苑は誰かに襲われても警察がすぐに駆けつけてくるところで安全だし、日陰も芝生もあって横になれるし、トイレも水道もあって便利だけれど、食料の確保だけがたいへん」

 仕事をしようとは思わないのだろうか。

「仕事しないで生活できるから、ホームレスになったのよ。もう人間関係も嫌だし。自分はほかのホームレスとも話をしないし、情報交換もしない。それでも寂しくは感じない。人の世話になる生活保護は元来、好きではないし、なんだかんだで人と関わることになるから」

 ところが、そんな人間嫌いの山上さんでも、「感謝することがある」という。

「ときどき、知らないおばさんなどが、弁当や3000円ほどをくれることがあるのよ。今年1月にも若い女性に“ティッシュいりますか?”と声をかけられた。もらったら、裏に1万円札が入っていてね。そんな優しい人もいる。ありがたいですね」

 そんなときは、石けんやカミソリ、歯磨き粉、ラジオの電池などを調達する。山上さんに2年後を聞いた。

「ほんのたまに競馬、競輪をやるので、一発、大きく当てて、それを頭金にしてアパートでも借りていたらいいなと。それが夢かなぁ。けれども最近、日比谷公園で公園職員か区役所の職員かわからないですが、直接的な言葉ではないにしても“出て行け”と言わんばかりの態度であしらわれたり、掃除係から小言を言われたり、やはり五輪が近いからなのかと思うことがしばしばありますね」と話した。