若手社員が不満をくすぶらせるおそれが

 アメリカやイギリスなどでは受給開始年齢を67歳まで段階的に引き上げていくことが決まっており、他国では受給期間はだいたい10年ほどだという。日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳。65歳から87歳まで年金をもらうとなると最低でも22年。

年金受給時期を遅らせないと制度自体がもたないところまできています。だから働けるうちはいくつになっても働いてもらおうというのが政府の考えです。大切なのは金額ではなく“いつまでもらえるか”なのです。男性より寿命が長い女性にとっては切実な問題です」(前出・八代氏)

 少子高齢化が進み続ければ誰が年金を下支えすることになるのか─。先細りする社会で高齢者頼みになることは目に見えている。

 社会福祉士の稲垣暁氏は、

「70歳まで働くメリットがあるのは、安定した大企業のサラリーマンやOL、公務員の定年退職者だけになる可能性があります。彼らは比較的いい労働条件で働き続けることができるかもしれない。しかし、中小・零細企業にそこまでの体力があるか。まして、定年前に退職した労働者や、非正規で働かざるをえない労働者は、玉突きで仕事にあぶれることも考えられます」と話す。

 稲垣氏によると、60歳や65歳定年制の企業で退職した人が別の企業に就職する場合は非正規雇用が多く、大企業や公務員の継続雇用者よりはるかに低賃金になる可能性が高いという。

「高齢になっても格差が続くような差別的な制度ならば、やめてほしい。その人の能力を正当に評価したうえで待遇もきちんとしなければいけません」(同)

 前出・八代氏は言う。

「人手不足が深刻な中小企業では大手企業で管理職を経験した人材を必要としています。ただし、継続雇用を義務づけてしまうと、大企業に勤めている人はそこにとどまってしまうため中小企業には流れてきません。そうなれば中小企業で活躍するチャンスが抑制されてしまうのです」

 別の副作用も心配される。例えば「年功序列型企業」で高い給料をもらいながら働かない高齢の従業員に対し、若手社員が不満をくすぶらせるおそれがある。途中で解雇されることなく70歳まで職場にとどまることになるからだ。

高齢者は衰えから比較的やりやすい仕事に回されることが多い。そうなると、若者やシングルマザーなどで働き始めの人が仕事を奪われてしまう」(前出・稲垣氏)

 若手が育たなくなれば企業にとっては致命的だ。