そんなお母さんでも、うっかりしてしまう比較があります。それはほかならぬ自分自身との比較です。私はこの比較が、ほかのどの比較よりもよくないと考えています。お母さんご自身も気づかないことが多いため、より深刻です。

 表面化するのは、能力における比較です。「私は数学が得意なのに、なんであなたはダメなの?」「私は足が速かったのよ」。日常的にこのように言われ続けては、子どもは参ってしまいます。

 ハイキャリアの親御さんの中には、大学は有名国立大学でないと認められないと考えている方もいます。有名私立大学に合格したくらいでは、喜んではくれないのです。

 これが容姿に及ぶこともあります。いつも「綺麗」と言われている母親の場合、娘の容姿が自分の「基準」を超えていないと、それを残念に思うことがあります。

 そういった気持ちは敏感に子どもに伝わりますから、思春期になると、娘は派手な化粧をし始めたり、逆に極端に容姿に対して無頓着になったりします。

 子どもが求めているのは、「私みたくなれるようにがんばりなさい」というプレッシャーではなく、「ありのままでいいよ」というメッセージです。ありのままの存在を認めることで、「認められているから、がんばろう」と、安心してその能力を伸ばすことができるようになるものなのです。

娘は自分の分身ではない

 母親と娘の関係が近い家庭では、母親が自分の自己肯定感の欠如を娘で補おうとしているのではないかと感じることもあります。

 子育てが楽しく、生きがいを感じているのであればいいのですが、なかには夫から強く専業主婦になることを求められた、という方もいます(共働きが増えていますが、現在でもこのような話は実際にあるのです)。

 そのような方は、自分の娘をまるで分身のように扱ってしまうことがあります。「私はキャリアを諦めてしまったけど、この子には負けてほしくない!」と、子ども以上に受験勉強に没頭したりするのです。

 娘はそもそも「母の期待に応えたい」という気持ちを強く持っているものですから、このような過剰な期待は、娘にとっては大きな重荷です。

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 やっと期待に応えて中学受験を終えても、大学、就職、よき伴侶、孫……と母親の期待はとどまるところを知りません。これでは、誰の人生かわからなくなってしまいます。

 娘は、お母さんの分身ではありませんし、お母さんが期待する人生を歩む義務もありません。このような母親に必要なのは、もっと自分を大切にすることです。夫のために、子どものためにではなく、自分のために何かを始めてください。

 いきなり大きな目標を立てるのではなく、スモールステップで小さなことからスタートしましょう。

 まったく自分の時間がなかった方なら、まずはその時間を確保する。何かお稽古を始めてもいいですし、資格の勉強をするのでもいいですね。

 母親がイキイキとしていれば、そのエネルギーは娘にも伝わります。母親が自分の人生を生きてはじめて、娘も自分の足で歩むことができるようになるのです。

(構成:黒坂真由子)


吉野 明(よしの あきら)私立鷗友学園女子中学高等学校名誉校長 東京三鷹市生まれ。一橋大学社会学部を卒業し、鷗友学園の社会科の教師となる。以来、44 年間、女子教育に邁進。鷗友学園における高校3年生時点での文系・理系選択者はほぼ半々という、女子校の中では極めて高い理系選択率を実現。女子の発達段階に合わせて考えられたプログラムなどにより、女子生徒の「自己肯定感」を高め“女子が伸びる" 学校として評価されている。