結婚や妊娠は想定されていない

 Aさんは、SNSなどを通じて、外国人労働者問題に取り組んでいる全統一労働組合に相談を持ち込んだ。同組合の佐々木史朗さんは、

「もともとこの制度自体、女性の実習生が妊娠するという想定をしていないんです」

 とバッサリ。

「監理団体が帰国を迫った事実はないということでした。ただ、はっきりしていることは、ベトナムの送り出し団体が、執拗に帰るように訴えていることです。妊娠がわかった2日後には、送り出し団体の副社長が来日して、Aさんを連れ帰ろうとしたんです。

 彼女の場合、送り出し団体の契約書に、妊娠した場合は帰国と書いてあったのです。しかし技能実習制度では、本人の意思に反した帰国をさせてはいけないと規定されているんです」

 その後もAさんは技能実習生の同僚にパスポートを抜かれたり(送り出し団体の職員に命令されたのでは? と佐々木さんは疑う)、Aさんの家族にまで早く帰るよう説得しろと送り出し団体が圧力をかけたり、送り出し団体の職員にベトナムから中絶の薬を持って行くと言われたりと、さんざんな目に遭っている。

 前出・佐々木さんが続ける。

「家族帯同を認めていない制度にそもそも、人権侵害のおそれがあると思います。労働力として来るわけではなく、生活者として来るわけですから、結婚や妊娠というものは想定しないといけない。技能実習生手帳にも、技能実習制度運用要領のマニュアルにも、妊娠・出産・育児については、何も書いてありません。

 想定外と切り捨てているんです。妊娠・出産は社会が最も保護しなければならないこと。政府が少子化対策や子どもを産む環境づくりを整えるなどと言いながらも、外国人実習生に対しては何もしないというのはいかがなものなのでしょうか」

 技能実習生は、送り出し団体に「平均で50万~100万円を支払って日本に来ている」(前出・佐々木さん)。生活習慣も気候も違う日本で働き、生活しながら、母国の家族に仕送りし、借金の返済をするという、がんじがらめの生活を余儀なくされる技能実習生。

 日本で働けずに帰国しようものなら、本国の給料ではなかなか返済できない借金だけがのしかかることにもなってしまう。

 前出・Aさんも、

「子どもが元気に生まれて、今ある借金をとにかく返したいんです。それが今、いちばんの夢です」

 と日本滞在を望む。