実際にアメリカやヨーロッパからの顧客にアテンドして、日本人とアメリカ人が同席する会議や会食などに立ち会うと、ほぼ毎回、外国人側から「日本人は、どうしてこちらのプライベートな情報について聞きたがるのか?」と質問される。

 以前、ある交渉の席で日本人ビジネスマンが、身長がそれほど高くないドイツ人の男性に対して、「いやー、ドイツにも自分と同じような背丈の人がいるんですね。親近感を覚えますよ」と言って握手を求めたことがあった。無神経な言い方ではあるが、日本人であれば、この日本人男性が相手に対し親しみを込めて発言したと推測できるだろう。

人の体形へのコメントはプライバシーの侵害

 しかし、この発言がきっかけで、その場の空気が凍った。日本語を理解するこのドイツ人は、求められた握手には応じなかった。これはポリコレ的にも非常によくない発言である。その場を出たドイツ人は、「あんなにズケズケとプライベートな部分に突っ込む指摘を人から受けたのは、生まれて初めてだ」と憤慨していた。

 その後、取引の交渉がどのような結果に至ったかは想像にかたくないだろう。人の体形に対してコメントをするということは、欧米ではプライバシーの侵害でもあるのだ。「本当のことなのに、なぜ言ってはいけないのか?」と納得いかない方もいるかもしれないが、本当のことだとしても口にはしてはいけないことがある。それがポリコレなのだ。

 これからの訪日外国人対策において、日本流のコミュニケーションやおもてなしが海外のポリコレに対応しているかどうか、は日本ではほぼ議論されていない。ポリコレには賛否両論もあり、欧米でも「ポリコレを気にするあまり、円滑なコミュニケーションが取りにくい」など、これによる弊害を指摘する人もいる。

 しかし、世界の経済の中心を動かすような大手グローバル企業ほど、ポリコレを重視する傾向がある流れを考えると、オリンピック開催前のこの機会に世界的なポリコレの動きを理解し、日本が誇るおもてなしが世界の流れに合っているかを検証してみても損はないだろう。

 今はソーシャルメディアを通じて何でもすぐに拡散されてしまう。せっかくのオリンピック商機に日本でのネガティブな経験が世界に拡散されないためにも、ポリコレをある程度は意識することや、海外の慣習の常識への対応策を用意しておくのは悪いことではないと思うのだが、どうだろうか。


ジュンコ・グッドイヤー ◎Agentic LLC(アメリカ)代表、プロデューサー。1971年生まれ。青山学院大学卒業。 テレビ番組、コマーシャルなどの映像コーディネーターとして活動後、1998年、宝塚歌劇団香港公演の制作に参加。それを機にプロデューサーに転身。株式会社ブルースカイエンターテインメントなどの代表として、ネバダ州立大学公認のピラティススタジオ日本進出やアスリートのためのメンタルトレーニング事業、国内外の舞台・イベント制作など、さまざまな事業を展開。 2010年に生活の拠点をアメリカに移し、現在ワシントン州シアトル近郊に在住。クリエイティブ&コミュニケーションエージェンシー、Agentic LLCの代表として、アメリカ、日本を中心に事業を展開。著書に『アメリカで感じる静かな「パープル革命」の進行とトランプ大統領誕生の理由』など。ブログはこちら。ポリティカル・コレクトネスに関するフェイスブックコミュニティも運営。

村山 みちよ(みらやま みちよ)◎Agentic LLC共同創設者、BizSeeds編集長。横浜生まれ。1993年に単身渡米し、ルイジアナ州立大学卒業後、米ワシントン州シアトル在住。米メディア制作会社勤務を経て、2007年に日本のテレビ局の北米取材コーディネーション業務および新聞や出版社の北米取材業務を行うJP Media Internationalを起業。ドキュメンタリー系の番組制作に多く携わっている。スポーツ分野にも造詣が深く、全米野球記者協会BBWAA会員。2016年に、日本企業のアメリカ事業展開支援と文化事業およびコンサルティング業務を行うAgenticを共同起業。日本には伝わりにくいアメリカの「今」を発信するメディア「BizSeeds.net」の編集長として、日々ビジネスや政治などアメリカ現地からのニュースも発信している。ポリティカル・コレクトネスに関するフェイスブックコミュニティも運営。