ドイツのお店では、なぜ「お客様は神様」という考え方がありえないのか? 日本とドイツのサービス業の質の差について、在独ジャーナリストの熊谷徹氏が解説します。

 ドイツは、日本と同じく機械製造業が盛んな物づくり大国。このため日本企業からドイツに駐在員として派遣され、数年間にわたりこの国で働く人も多い。ドイツは製造業のデジタル化(インダストリー4.0)など世界的に注目されるプロジェクトも進めているため、日本企業の関心は高まる一方だ。

 外務省によるとドイツには、2017年の時点で日系企業が1814社ある。これは欧州で最も多い数だ。世界全体で見ても7番目に多い。

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 このため、ドイツに長期滞在する日本人の数は年々増えている。例えばドイツ在住の日本人の数は、2013年から2017年までに22%増加した。ミュンヘンに住む日本人の数は過去10年間で2倍に増えた。日本の企業戦士たちはドイツ語の知識がなくても、会社の命令でいきなり住み慣れた日本社会からドイツへ送り込まれる。

日本と違って「客扱い」されない

 ドイツへ転勤してきた日本人の多くは、小売店や飲食店の顧客サービスの悪さにショックを受ける。私には彼らの気持ちがよくわかる。日本に比べるとドイツはサービス砂漠である。おもてなしという観念はほぼゼロの国だ。

 私はここに29年住んでいるので慣れているが、日本から初めて来た人が受ける衝撃には相当なものがあるはずだ。日本では「お客様」としてまるで真綿にくるまれるように店員から優しく接してもらえるが、ドイツでは「客扱い」されないことがしばしばある。

 最も目につくのは、商店やレストランでの店員の態度の悪さだ。先日、あるドイツ料理店でお金を払うために財布の中を見ると、あいにく小額紙幣がない。このため100ユーロ(約1万3000円)紙幣を出したら、店員に「こんな高額紙幣で払うなんて!」とすごい剣幕で怒られた。

 日本ならば1万円札を出されて怒る店員はいないだろう。客のお金で支えられている店員が、お金を払う客を叱る。大半の日本人は、度肝を抜かれるだろう。

 ドイツでは、客が店員から待ちぼうけを食わされるのは日常茶飯事だ。手を挙げて店員の注意をひかなくては、いつまでも注文を取ってもらえない。客が自分でメニューを取りに行くことも珍しくない。私は急いでいるときには、店員のところまで歩いていって、「注文を取ってもらえませんか」と催促する。