佐藤正敏さん(仮名、57歳)は48歳のときに脳出血で倒れ、それ以来、半身不随の状況でした。寝たきりで、食事は経管栄養(胃ろう)で摂取。眼球の動きや、まばたきで意思表示できることが判明してからは、視線入力ができるパソコンを使って文字で会話ができるようにもなっていました。

 症状はよくならないが、安定した状態でまもなく10年になろうというとき、正敏さんの体調に変化が生じました。呼吸や意識レベルが不安定になり、「余命、数カ月」と家族は宣告をされます。

 この10年間で、妻の晶子さん(仮名、55歳)は、当時まだ中学生(長男)と高校生(長女)だった子ども達を育て上げ、現在は保育士として働いています。多感な中高の時期を無事に乗り越えられたのは、たとえ病床にあっても存在感があった父親のおかげ、と正敏さんに対して感謝の念をのぞかせる彼女。余命宣告されたときは、覚悟を決めました。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 それから1カ月ほどした後、正敏さんは亡くなりました。

「格安葬儀パック」を選んで大後悔

 妻の晶子さんが葬儀を取り仕切るのは初めてではありません。正敏さんの療養中に、義父と義母2人の葬儀をあげています。義父の葬儀は250万円と予想以上に高かったため、義母は「私の葬儀は安く済ませてほしい」と口癖のように語っていました。

 義母の死後に晶子さんが選んだのは、インターネットで見つけた「格安葬儀パック」の中でもワンランク上の家族葬パックです。義母の場合は親戚15名程度と数名の友人が集って食事込みでも90万円程度でおさまり、費用面ではかろうじて想定内。しかし、「もうあの格安葬儀パックは二度と利用したくない」と晶子さんは言います。

 近年、「全国展開」「追加料金不要」をうたう格安葬儀パックを販売するネット系の葬儀社が台頭しています。インターネットで、それ以前は電話帳で集客し、葬儀社を紹介する紹介ビジネスは1990年代後半からありましたが、葬儀のパッケージ商品を作ってインターネットで集客、現場は提携する葬儀社が施行を担当するというビジネスモデルがこの10年で急速に増えました。